サンタコス

naka-motoo

サタン

 赤い服はサンタ。

 血の服ならサタン。


 われわれは西洋の恐怖というものは特にはわからないけれども日本であったり東洋の途方に暮れたくなるような恐ろしさならば知っている。


 地獄。


 地の底のそのまた奥の底のそれを突き抜けたところに広がる世界。

 保釈などという概念の存在しない世界。


「サタン」

「なんだ」

「アンタ、地獄に堕ちたら?」

「なに言ってる」

「地獄って、悪のアンタが支配できるような生易しい場所じゃない」

「くだらんことを」

「分かってるくせに。ホンモノの地獄じゃアンタの駄々も通用しない。生きていた時の身分も地位もなんの意味もない。ただ、目の前に百三十六種類の地獄が存在して他の亡者どもとなんの分け隔てもなく責め苛まれる。どう?」

「ふっ、ふっ、ふっ。じゃあお前はどうなんだ」

「サンタのコスプレしてひとりぼっちの人たちにプレゼントを配った。下はミニスカバージョンで」

「ふふ。それしきのことで罪滅ぼしできたと思うなよ」

「罪滅ぼし?」

「男を、振っただろう。5人」

「昔の話よ」

「振られた男たちにとっては只今現在だぞ」

「小悪魔、であってアンタみたいな悪魔じゃない」

「ふふふふふふ。わたしと地獄の鬼と、どちらが恐ろしい」

「鬼」

「ほう。なぜ」

「アンタより躯体が大きい」

「それだけか」

「残虐なんじゃない。秩序のもとで亡者を苛んでる」

「はははははは。マジメか!?」


 こいつはダメだと思った。

 ほんとうに恐ろしいのは自分の我欲で暴力を行使する人間じゃない。

 誰かのオーダーで、極めて冷静に、血糊と骨髄の液と、骨そのものの削り粉を適量ずつコントロールしてノコギリや金槌で砕き削り出せる人格。


「あああ!?」

「それは、氷点下の洞窟の中を潜り抜ける間に血肉が瞬時に凍って骨のみとなって出口から出てきた瞬間に痒くても骨の中を搔けないようなそういう耐えきれない感覚で一気に身体が再生しもう一度洞窟をくぐるという地獄」

「おおおおおおおおおおおおお!」

「それはムカデやゲジゲジやあらゆる虫が足下と皮下脂肪と皮膚の間とに齧りもぐりこんだり、内臓の中に入ってきてやっぱり痛痒いのにどうすることもできない地獄」

「うああああああああああああ!」

のこぎりで、開きのように、体を分断される。鬼の腕力によって」


 わたしはサタンを、地獄に堕とした。

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