1.ノルウェイの森

 まず最初にノルウェイの森について扱うことを許していただきたい。

 ノルウェイの森は、私が村上春樹の小説と出会った記念碑的な小説な訳でして、そういった理由もあり紹介をしようというわけです。

 ノルウェイの森というのはおそらく、村上春樹の小説の中で1番有名な小説だと思います。何しろベストセラーなわけですから。しかし、ノルウェイの森は村上作品の中では、異質であるという事実があります。ノルウェイの森はリアリズム小説ですが、村上春樹の中ではそれは異質なものなわけです。というのも、村上春樹の魅力とは現実とファンタジーの折衷だと私は思っています。そういう意味では、純粋なリアリズムというのはのかもしれません。

 そういうわけで、村上春樹を読み始めるにあたり、私達ファンがこれから読み始めようとする人に、ノルウェイの森を勧めるのは、悪しきことであるという風潮があります。ノルウェイの森は面白かったけど、他の読んだらなんか違う、となりかねないからです。

 以上のことから、私が最初にノルウェイの森を紹介するというのは本来あまり良くないことなのかもしれません。いや、良くないことです。しかし、私はノルウェイの森を村上春樹の小説としてではなく、一つの文学として勧めます。そしてそこからふるいにかけられた読者がそこから先の村上春樹にハマってくれればいいというわけです。少なくとも、ノルウェイの森から他の作品に行って躓く人は最初から村上作品には合わないので、別に問題ないでしょう?

 現に、私が最初に読んだ村上作品はノルウェイの森です。有名だったから読みました。そんなんでいいんですよ、始めるきっかけなんて。



 というわけで、前振りはこれまでとします。

 ノルウェイの森は、主人公のワタナベと、自殺した高校時代の親友キヅキの恋人だった直子。そして、大学で出会う緑という女性の3人を主軸に進んでいきます。

 高校時代、キヅキが練炭自殺してから、ワタナベと直子は必然的に会うことが無くなり、卒業後は東京の大学に進学します。しかし、ある日東京の中央線で、直子とばったり会います。そこから、ワタナベと直子はデータを重ねるようになります。

 そのような日々が続き、やがて直子は20歳の誕生日を迎えます。死者であるキヅキは17歳のままで、直子は今20歳になる。その事実に、直子は思いつめます。

 そうして、その夜ワタナベは直子と寝ました。彼はわかりませんでした。

 それから、直子と連絡が取れなくなりました。直子はアパートを出払って、行方を晦ましていた。


 これが、あらすじです。ここからのワタナベと直子の関係が、切ないまでに美しい表現で描かれるのが、ノルウェイの森です。 

 村上春樹の小説は、多彩な比喩表現が特色ですが、今作は特に美しい比喩表現が多いと私は感じています。小説の中から音楽が聞こえ、雨の音が聞こえる感覚に陥ります。

 本作の特徴として、死とセックスが特に描かれているというのがあります。そこには、少なからず嫌に思う人がいるのかもしれません。しかし、それらを避けずにこの話を終わらせるのはおそらく不可能だったのではないか、と私は思うわけです。死ばかり描いても、彼岸しか見えません。死とセックス二つを描くことで、彼岸と此岸が見えるのではないか、と。

 死とセックスについて、美しい表現で描かれているので、不快感は無いと思います。しかし、それらが主題であるということまた、事実であるということをここで述べておきたいと思います。

 ノルウェイの森は、作中の表現を借りるなら、小説です。静かに雨の降る日に、そのような小説を読んでみたらいかがでしょうか。

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