突きつけられた事実と、二人目の証言者レミチカ

 トモは着衣の片隅に携えていた一通の書面を取り出し広げた。


「これをご覧ください」


 広げた書面をデライガに見せ、周囲の会議参加者にも開示して見せる。さらに進行役のシノロスにそれを手渡して言った。


「ヘルンハイトの外務省発行の省内情報伝達文書の符丁番号入りの公正複写証書です。念話装置を経由しての文章の遠隔伝達を目的としたものです。ヘルンハイト大使館へと確認を取っていただければ、これが公式な文章であることを証明できるはずです」


 その親族会議には見届け人として弁護士と候族儀礼管理官が数名ほど参加している。その彼らがトモが示した文書の周りに集まり見聞している。その彼らの結論はすぐに出た。


「間違いありません。ヘルンハイト政府発行の公的文書の写しです」


 弁護士の言葉が全てを決定づけた。

 デライガはいよいよその表情を蒼白なものへとしていた。彼にとって完全に思わぬ方向からの攻撃だったからだ。否、彼自身が蒔いた種が2年の時を経て自分自身に降りかかってきたのだ。

 トモがユーダイムに対して目配せする。ユーダイムが頷いて、トモもうなずき返した。


「私からは以上です。これにて発言を終わります」


 その上で一礼すると後ろへと下がっていく。


 一人目の証言がおわり二人目の証言が始まった。

 身につけているのはオレンジ色のシルク地のエンパイアドレスにこげ茶の毛皮製のスペンサージャケット。腰から下には可憐なフリルがふんだんにつけられた木綿製のオーバースカートが重ねられている。

 明らかに一般の候族よりはるかに上の格の高さが感じられる。

 彼女は自ら進み出ると、討議場の中程に立ち名乗った。


「失礼、私の名はレミチカ・ワン・ミルゼルド。上級候族十三家がひとつ、ミルゼルド家宗家当主の息女にして長女です。本日はモーデンハイム家の親族会議に部外者でありながらもお招きいただき発言を許していただけること誠に光栄に存じます」


 凛とした落ち着いた声で整然と述べると、まずは進行役とユーダイムにそれぞれ一礼し、さらには両サイドのひな壇席へと左右それぞれに一礼を送る。

 そして改めて進行役の方へと向き直った。

 そんな彼女にユーダイムは尋ねた。


「してレミチカ嬢にお尋ねする。今回ある人物がミルゼルド家に関連するとある大きな事件の解決に向けて動いたとお聞きしている。それについてお聞かせ願いたいがよろしいか?」


 ユーダイムの問いにレミチカは毅然とした答えた。


「よろしくてよ。お答えいたしますわ」


 レミチカは一呼吸おいて語り始めた。


「そもそも我がミルゼルド家の系列親族家の一つにアルガルド家なる者たちが居ります。その手配の者たちが引き起こした事件は、耳ざとい皆様であるならば既にお聞き及びと存じます」


 ユーダイムは答える。


「うむ、アルガルド家当主デルカッツ候の指揮のもと周辺領地を強引に併合し、そのために周囲に様々な妨害や謀略活動を繰り広げていた事件ですな」


 ユーダイムはさらに言う。


「その件に関しては、当主デルカッツが自刃し、その甥であるモルカッツがすでに捕えられ軍警察と憲兵部隊の手により厳しく取り調べられている」


 レミチカが告げる。


「ご存じであると言うのであればお話が早いです。私は今回の事件に関して我がミルゼルド家の総力を挙げてある事実を突き止めました」


 ユーダイムが問う。


「その事実とは?」


 そう問われてレミチカは、親愛なる親友を長年にわたり苦しめ続けてきたその元凶であるデライガを鋭く睨みつけながら力強く叫んだ。


「逆賊デルカッツとモルカッツの二人の人物の周辺の資金の詳細な流れです!」

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