戦闘Ⅰ 火炎の精術と大地の精術
ラインラント砦の広い大広間の中で私たちの闘いは始まった。
私とデルカッツ、双方に武器を握りながら対峙している。
私が握りしめている武器は〝
ハンマー形状の打撃部分に、長い竿があり、がっちりとした握りの部分に繋がっている。
それに対して、敵デルカッツが握りしめていたのは、この国ではありえない両刃の直剣だった。
両刃の直剣、それは私たちフェンデリオル人にとって、侵略者・異民族・侵入者を象徴する忌まわしきもの。この国の人間であるのなら絶対に持つことはない。
だが彼はそれを所有している。すなわち彼がこの国自身に対して強力な敵意を持っていることに他ならなかった。その直剣の名は〝紅蓮の神太刀〟――火精系の精術武具だ。
私は彼に対して叫ぶ。
「逆賊であるあなたに対して最後の慈悲を告げます。おとなしく投降しなさい」
だが彼は拒絶する。
「ふざけるな。粋がった小娘風情が」
そこには交渉の余地は微塵も残されていなかった。
建物の外から太陽の光が大広間の中へと飛び込んでくる。光は乱反射し広間の空間を光で満たしていく。
私はその中に戦いに臨んでいた。
先に攻撃を仕掛けたのは私。
意を決して一気に駆け出す。
戦杖を右手に握り、その打頭部をやや斜め下に向けと右手側に大きく強いて振りかぶる。
前傾姿勢で一気に駆け込むと頃合いを見計らってデルカッツの胴体めがけて叩きつける。
――ブオッ――
だが敵は素早く後方へと引きながら、精術を駆動させる聖句を詠唱する。
「精術駆動 万火の
その瞬間、デルカッツの紅蓮の神太刀の根元から剣先へと向けて赤い炎が一気に吹き出た。
下方向へと剣先を降ろしていたが、跳ね上げるように手首と肘で振り上げる。
――カィン!――
こちらの戦杖と、敵の太刀、撃ち合いながら互いを牽制する。
デルカッツの紅蓮の神太刀が炎に包まれるシルエットは一見、恐ろしげに見える。だが、こちらがその炎の有効範囲を見切ってさえいれば決して恐れるような物ではない。精術に通じた人間なら常識と言える範疇だ。
低く腰を落とした姿勢で、戦杖をはじかれた勢いを生かしたまま第2撃へとつなげる。
左脇から背面を通して頭上を経由して振り下ろす。
敵は再び下から上へと切り上げて、私の戦杖と真っ向から打ち合う。
――カァンッ!――
ここからは真っ向から互いに打ちあった。
右斜め上から打ち込み、打ち返されれば、横薙ぎに打ち込む。
振り抜いて、左側へ少し溜めたあと、左足を軸にして右半身全体をフルに生かして大きく横薙ぎに叩きつける。
――ガアンッ!――
デルカッツの神太刀が強く弾かれ、構えの姿勢が大きく崩れた。
「チャンスだ!」
私は機を捕らえてそのまま、さらに全身を
「精術駆動 重打撃」
その瞬間、愛用の戦杖の打頭部が重量を増す。見かけの質量が増大し、打撃のインパクトが一気に増加した。
――ゴオッ!――
風を切り唸るような音がして、デルカッツを襲う。
――ゴオンッ!――
私の攻撃がとおり凄まじい打撃音がする。そして、剣を構えた彼ごと後方へと強く弾き飛ばした。
床へと着地するとすぐに敵のその後を追う。私の重打撃にデルカッツは吹き飛ばされたが、それでも倒れずに立ったままの姿勢を維持しているのはさすがだった。
「ぐうっ!」
相当な衝撃を食らったのだろう、苦悶の声が漏れる。その声と同時にデルカッツは私を真っ向から睨みつけてくる。
「おのれぇ! モーデンハイムの
その悪言には、彼が私に抱いた強い敵意がにじみ出ている。そしてその悪意をそのまま精術として私へと叩きつけてきた。
「喰らえ」
デルカッツは神太刀を頭上高くに掲げる。
「精術駆動」
勢いよく神太刀を振り下ろしながら叫んだ。
「
振り下ろした際の神太刀の切先の軌跡が描くアーチのラインそのままに炎が弓を描き出す。振り下ろし切るとその炎のアーチは勢いよく飛翔し、私のところへと飛んでくる。
――ブオッ!――
とっさにそれをかわそうと距離を取る。
――ボオオンッ!――
炎のアーチは物体に振れた瞬間、爆破しつつ周囲を類焼させる。あれに当たれば、私なぞはひとたまりも無く燃え上がるだろう。火炎系はあたったときの一撃の威力がとてつもなく大きい。油断ならない相手なのだ。
「逃すかぁ!」
デルカッツはさらに紅蓮の神太刀を振るい続け、炎のアーチを何本も放ち続けた。
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