接敵・トルネデアス軍出現

 交代時間が来て、今度は彼が歩哨に立ち、私が天蓋の下に潜る。時間も昼近くなので、保存食の乾燥パンと干し肉、乾きを癒すためにプラムの乾燥フルーツを齧る。愛用の武器を腰に下げたまま、行動日程の管理表を取り出しチェックする。

 脇目でちらりと見れば、サボり魔だったはずの彼は割と真面目に歩哨をしてくれていた。


「やればできるじゃない」


 そう感心しているときだった。

 

――チャッ――


 ドルスが腰に下げている刃物を抜いた。

 

【牙剣】と呼ぶ私達民族に伝わる固有の武器だ。一枚板拵えの肉厚な曲剣だ。大きさや形は使う人の戦いの流儀によってそれぞれ違う。ドルスの牙剣は片手用でとても軽量に造られている。


 私も素早く立ち上がり腰に下げていた武器を掴む。こっちは牙剣と違うステッキハンマー風の武器で【戦杖】と呼ばれている。

 ドルスの視線をたどれば、そこには誰かが駆けてくるシルエット。それも見覚えのあるシルエットだ。

 

「あのバンダナ、プロアさん!」

「何かあったらしいな」


 頭にバンダナを巻いたプロアだった。ラクダの白マントを首に巻きたなびかせなら駆けてくる。私とドルスも駆け出した。

 

「どうしましたか!?」


 私の叫びにプロアが答える。

 

「接敵! トルネデアスだ!」

「なに!?」


 途端に緊張の度合いが増す。危険度が勢いを増す。プロアさんと私達、双方が駆け寄った。


「状況を」

「国境侵犯だ、10人規模でなにやら調べている」

「武装は?」

「武装は軽装、ただし馬上弓を装備している。まだこちらには気付いてない」


 とりあえずの初期情報は得た。次に仲間の安否だ。私は矢継ぎ早に尋ねた。


「発見したのは?」

「バロンだ、ダルム爺さんとゴアズもいる」

「残り4人は?」

「パックの旦那とカークのおっさんには会えた。残り2人にはパックの旦那が伝令に向かった」


 そこでドルスがプロアに問うた。


「軍用ラクダを連れているか?」

「もちろん。全員、砂漠越え装備の軍用ラクダに乗ってるよ」


 私は与えられた情報から即座に判断を下した。

 

「私も現地に向かいます。ルプロア3級案内を」

「了解」


 そしてもう一人、ドルスにも命じる。


「ルドルス3級はここで待機願います」

「わかった」


 要は荷物番、だが帰還のルートを考えると装備や食料を失うわけにはいかないから重要な役割だ。彼の言葉が聞こえる。 

 

「おい」


 私たちが振り向けば、ドルスは真剣な表情で言った。


「火薬武器に気をつけろ。砂モグラには〝火竜槍マドファ〟がある」


 それはドルスなりの忠告だった。〝砂モグラ〟とはトルネデアスの兵を揶揄する俗語だ。さらに火竜槍マドファは大量の矢や金属片を火薬で一斉発射させる強力な火器だ。知っておいて損はない情報だ。

 

「ありがとうございます。注意します」


 ドルスさんへと礼の言葉を送る。

 

「現場へ!」


 その言葉とともに私は走り出した。

 

 

 †     †     †

 


 そして、走ることそう遠くない距離。待機場所が視界の外へと消えるほどの道のりを越えたところに皆が集まっていた。

 曇ることのない炎天下の下、岩場の影に皆が先行して集まっている。そこへと足音を潜めて駆け寄った。

 

「隊長」


 そう野太い声で問いかけてくるのは巨漢のカークさん。

 その傍らに残り二人を探しに行ったという東方人のパックさんがいた。


「申し訳ありません。残り2名の連絡が取れません」

 

 パックさんは、正統派の武術を学んで習得しているため足が速い。その彼の足を持ってしても見つけられないならいたしかたない。私はこの場に集っている皆の一人一人の顔を眺めながら言う。


「しかたありません、この7人で対処します」

 

 そして私は求めた。


「敵兵を視認できる場所は?」


 その問いに双剣を得意とするゴアズさんが言う。

 

「こちらです」


 彼に案内されてそこから少し歩いた場所の岩場の影からトルネデアス兵を視認する。

 その数は10名、全員が軍用ラクダに乗っている。

 ゆったりとした造りのドラーマと呼ばれる長袖の上にドルマンと呼ばれる長袖の前合わせのコートを羽織っている。さらに頭から全体をすっぽりと覆うフード付きマントを羽織っていた。

 武装は腰に下げた直剣に馬上弓だが――

 

「やっぱり。火竜槍マドファもある」


 ラクダの背の後ろの方に円筒状の武器が載せられている。中に火薬と矢を仕込んだ火竜槍マドファだ。無数の矢を火薬で一斉に撃ち放つ武器でトルネデアスでは頻繁に使われている。私の傍らのゴアズさんも言う。


「あれを使われたら厄介です。最悪、こちらも全滅しかねません」

「正面からの単純制圧は無理ですね」


 見れば、敵地視察しているかのように3人ほどが視認したものを話し合っていて記録をとっている者も居る。残りの人員は警戒役らしい。

 

「強行調査部隊? 進軍ルートの現地調査かしら?」

「その可能性はあります」

「戻りましょう。制圧方法を決定します」

「了解」


 私たちは足音を潜めながらその場から立ち去った。

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