プロアの思いやり

 そしてアシュゲルは問う。

 

「それで闇オークションの構成員に?」

「まぁ、そこに到達するには色々とあったんだがな。だが、おかげで手がかりを掴んだんだ。残り1つのイフリートの牙を、この西方辺境の地方領主のいずれかが隠匿所有している可能性をな」


 そこまで話してアシュゲルもハイラットもなにかに気づいたらしい。

 

「ま、まさか」

「その隠匿所有者と言うのは」

「そう――」


 プロアはアシュゲルが手にしていたインドラの牙を拾い上げながらこう告げた。


「お前たちのあるじ、デルカッツ・カフ・アルガルドだ」


 その言葉に対して二人とも声はなかった。

 

「色々と調べて、デルカッツ自身は俺の古巣には関わりはなかったが、ここのハイラルドってやつのところに、闇オークションに繋がりのあるとあるブローカーが人づてに出入りしている事がわかった。他の可能性のあるやつは虱潰しにしらべて可能性が薄かったからな。まずここで間違いねぇ」


 アシュゲルが傷ついたハイラットのもとへと向かう。手を貸して支えながらプロアへ問う。

 

「その、インドラの牙はどうするんですか?」

「回収して元の持ち主の遺族へ返す」

「遺族?」

「強殺されて奪われたんだ。12本全てな。インドラの牙は12本1セットでつかう集団用の特殊な精術武具だ。単独でバラにしたら意味がない。だが金色の外見が仇になって金目のものと勘ぐられて奪われたのさ」

「強殺――」


 絶句するアシュゲルにプロアは続ける。


「闇オークションでは盗品は問題ないが、殺して奪ったやつはご法度なんだ。官憲の追求が厳しくなるからな。それを知らずにインドラの牙を買ったやつが官憲にしょっぴかれる事件が起きたり、遺族から闇オークション関係者に高額な回収報奨金が出されたこともあって今では最優先で探索が行われてる。こんな物を得意がって腰に下げたらあっという間に捕まるぜ?」


 そして、ハイラットが持っていたインドラの牙を手にするとそれを拾い上げる。

 

「これで12本目――持ち主の侯族の未亡人も喜ぶだろうぜ」


 プロアはあらためてアシュゲルたちを見つめた。

 

「あるんだろ? 隠し通路?」

「は、はい」


 プロアの問いかけにハイラットが答える。プロアは更に言う。

 

「今ならまだ間に合う。急いで逃げろ。正面から逃げると正規軍の憲兵部隊に鉢合わせるぞ」


 そして穏やかに微笑みかけながらこう告げたのだ。

 

「まだやり直せる。ここでの事は忘れて一から始めろ」


 アシュゲルが答える。

 

「はい」


 ハイラットが言う。

 

「貴方ほどの方がそう言うのなら」


 2人のその声には感謝の念がにじみ出ていた。そしてアシュゲルは言った。

 

「目が覚めました」


 その言葉がプロアには地味に嬉しかった。


「なにかあったら、ブレンデッドって街を訪ねな。俺はそこに居る。力になってやるよ」

「ありがとうございます」

「失礼いたします」


 プロアの言葉に2人はそう答えながら頭を下げつつ入ってきた扉とは別な扉へと歩いていく。

 その姿を見守りながらプロアはつぶやいた。

 

「頑張れよ」


 その声にはかつての自分を重ねる思いがにじみ出ていた。

 そして、ルストの姿を求めて歩き出したのだった。

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