ひねくれ者と分からず屋
同じ頃、ラインラント砦の2階、来賓用奥階段を上がりきったところに〝控えの間〟と言う通路兼広間がある。
奥行きが長く細長い三角形の間取りのその通路で、3人の人物がそれぞれの立場で対峙していた。
一人はルプロア・バーカック、ルストの部隊の斥候役であり偵察から暗殺まで多岐にわたるスキルの持ち主。二つ名は『忍び笑いのプロア』
その手には武器は手にしていないが、両足に履いたブーツが精術武具であり、立体的な体捌きによる高速戦闘が信条だ。
彼は鋭い視線で対峙している2人を睨みつけていた。
そのプロアの目の前に立ちはだかっていたのは二人の若者。
この城の城主であるデルカッツ直属配下の政務官、アシュゲルとハイラットの2人だ。
古式ゆかしいルタンゴートジャケットに襟元には古式ゆかしいクラバットと言う、古くからの侯族階級にて守られてきたドレスコードを彼らは身にまとっていた。年の頃はまだ若く20代前半か半ばと言うところだろう。
彼らのその手には金色に光る二振りの牙剣がある。
銘は『インドラの牙』
その精術武具の存在をプロアは知っていた。鋭い視線で睨みつけながら彼は言う。
「おい、お前ら」
荒っぽい口調。言い換えれば粗野な語り口。それにはプロアのとある経験がにじみ出ている。
「一度しか言わねえぞ。その精術武具、おとなしくこっちによこせ」
それはさも、彼らの持っている武具に問題や因縁があるかのような口調だった。
まず答え返したのはアシュゲル。赤毛の長髪の若者だ。
「何を言い出すかと言えば」
その口調には呆れるかのようなニュアンスがにじみ出ている。
「宝目当ての物乞いか!」
さらに吐き捨てたのはブラウンの髪の若者のハイラットだ。
プロアの最初の説得に彼らは耳を貸すつもりは毛頭ないらしい。プロアは言う。
「そんなんじゃねえんだよ!」
怒気をはらんであらっぽく突きつけた。
「どこで手に入れたかはしらねえが、そのまま腰に下げてて良い代物じゃねえんだよ! そいつは!」
そして、世の中の裏側も散々見てきた者としてプロアはあらためて諭すように告げた。
「今なら間に合う。そいつを置いてここからさっさとずらかれ。お前らならまだやり直せる!」
そう語りかける。プロアだったが彼の言葉に2人は全く耳を貸さなかった。
ハイラットが言う。
「欲しければ」
アシュゲルも告げた。
「腕ずくで奪い取れ!」
そう吐き捨てると同時に2人はインドラの牙を軽く振った。すると剣先から微かに稲光がほとばしる。明らかに雷精系の特徴が見て取れる。言葉による説得は通じそうになかった。
「そうまでしてあの悪党に義理立てすんのかお前ら」
その言葉にアシュゲルたちが反論しそうになったがそれを遮るようにプロアは言う。
「お前ら見てぇな若い連中は散々見てきたんだよ」
その目には過去の過酷な日々を思い起こすような憂いが浮かんでいる。
「悪いやつに言いくるめられて洗脳されて、さもそいつが自分の恩人であるかのように思い込まされてる。悪いやつってのは優秀なやつをみつけると自分の腹心の部下に仕立てようとする。そのためには色々と仕掛けてさも自分が恩人であるかのように思い込ませるんだよ!」
そしてプロアは指差した。
「その証拠がそのインドラの牙だ」
その言葉にアシュゲルたちが怪訝そうな顔をする。
ハイラットが問うた。
「何を言ってる貴様」
プロアは答えた。
「知りたいか?」
そう注げると両足の精術武具・アキレスの羽を踏み鳴らした。
「そいつを腕ずくで回収したあとで教えてやるよ」
アシュゲルが言う。
「そうか、ならば――」
アシュゲルとハイラット、互いに視線を交わし合ってプロアへ告げる。
「来い。心ゆくまで相手してやる」
そう声を残して控えの間のフロアから移動する。来賓用階段からみてフロアの反対側、そこに両開きの重い扉がある。それを押し開いて隣接する部屋へと姿を消す。
「おもしれぇ、河岸変えようってのか」
プロアはにやりとしながら歩き始めた。
「望むところだ」
この口調には苛立ちと悲しみが織り交ぜられていた。あえて真実をぼかしたままで事態を収集したかったに違いない。だが、それは無理だ。
「鼻っ柱へし折ってわからせてやるよ、世の中の裏側ってのをな」
そしてプロアも隣接する部屋へと足を踏み入れたのだった。
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