巨人の牙剣と鋼の戦棍

 カークとカルドが同時に進み出た。

 カルドの巨人の大型牙剣ギガズベルデバインがその切っ先を振り上げて勢いよく振り下ろす。

 それをカークの左の戦棍の端が払いのける。まずは序の口だ。


――カインッ!――

 

 返す動きで左右を入れ替え、右の戦棍の端を横薙ぎに打ち込めば、カルドは大型牙剣の握りの根元の方を下から上へと跳ね起こした。巨人の大型牙剣の握りの根本には小型のもう一つの肉厚な刃が備わっている。それでカークの戦棍を払い返す。

 だがカークも間をおかず、戦棍の左の端を更に打ち込む。これに返すのは大型牙剣の刃峰の中ほどだ。

 

――キンッ!――


 そこから互いの動きが素早さを増した。

 カルドが巨人の大型牙剣をその主刃峰の長さを活かしつつ打ち込みを重視しつつ連続でカークの急所を狙いに来る。

 それに対してカークは戦棍の長さとその両端の動きを活かしてカルドの打ち込みを効率よく弾き返し続けた。

 一進一退の攻防が続く。言葉はなく終始ついに無言だった。

 だが、その流れに変化が生じたのはカークが勝負を決めようと精術を駆動させたときだった。

 

「精術駆動」


 戦棍の左を強く握りしめ、そこを視点として右の握りを戦棍の中程へとずらして有効打となるリーチを稼ぐ。そして、右腕の力を全てこめて勢いよく打ち込んだ。

 

「雷撃打!」


――バリッ!――


 両手の雷神の聖拳から雷撃がほとばしり戦棍全体へと伝搬する。放電を伴いながらカークは戦棍の右の先端をカルドへと打ち込んだ。

 

――ガンッ!――


 衝撃をともないながら戦棍が大型牙剣にぶち当たれば蓄積されていた雷撃が放電される。それがカルドの大型牙剣に伝わりダメージとなる――はずだったが、

 

「無駄だ!」

「何?」


 カルドには何の痛痒もなかった。

 雷撃が伝わり剣戟の動きが止まるか最悪取りこぼすこともあるはずだった。だが、そうはならない。カークが放った雷撃が伝わらないのだ。カークは自らの戦闘経験からその理由を導き出す。

 

「抗精術マテリアル!」

「そのとおり!」

 

 抗精術マテリアル――精術武具の主要素材であるミスリル素材、そのミスリルの使い方と錬成方法を工夫することで精術の媒介としてではなく精術をはじく抵抗素子として仕立て上げたものだ。

 

「精術殺しと言われたやつだな」

「知っていたか」

「あぁ」


 抗精術マテリアルには精術を前提とした攻撃が浸透しない。熱、火炎、雷撃――精術により生成された攻撃を尽く弾き返してしまう。当然ながら精術により武器が破壊されたり、武器の保持を阻害される事がなくなるのだ。それゆえ精術殺しとも言われていた。


「ならば」


 カルドが大型牙剣を振り下ろすと間を置かずに突きへと転じる。薙刀か槍を突き出す動きで突きの連撃へを繰り出し始める。

 

「これで終わりだ! 雷神!」


 神がかり的な高速の連突きでカルドはカークへと猛攻を始める。カークはそれを連続でいなし続けるがカークの武装は両手の雷神の聖拳あってのものだ。それが通じないとなると戦棍だけと言うことになる。

 カルドの斬撃がカークへと届き始める。体の数カ所を切りつけられ流血が生じた――時だった。

 

「精術駆動」

「?」


 精術が通じない――その現実が逢ったはずだがカークの口から漏れた言葉にカルドは驚きを覚えた。

 カークは唱える。

 

「磁力加速!」


――ブウゥゥゥゥゥン――


 鈍い振動音が鳴り響く。カークが握りしめていた戦棍が微かに振動している。次の瞬間、カルドを待っていたのは驚きの光景だった。

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