名乗り出る傭兵たち

 主要な人々にトルネデアスの軍勢の動きの監視を命じながら、私はこちらへと参集してくる正規軍人や傭兵たちを見守っていた。


 彼らの動きは速く、思ったよりも速やかに私たちへと合流を果たした。

 そして、それらの人々の群れを代表するかのように先陣を切ってやってきた人たちがいる。


 職業傭兵たちからは数名、正規軍人からは2名が進み出てくる。

 その中で真っ先に声が上がったのは見慣れた顔のふたりだった。


「ルスト隊長!」

「助けに来ましたぜ!」

「マイストさん! バトマイさん!」


 まさかと思った。現れたのは以前の哨戒行軍任務で同じ部隊だったあの二人だったからだ。

 マイスト・デックス、バトマイ・ホーレック――二つ名こそ無いが、傭兵としての心意気も、人としての思いやりもしっかり持っている頼もしい人たちだ。その彼らが言う。


「強制執行部隊の元々の指揮官があまりにデタラメでしてね」

「集まってた傭兵の連中に呼びかけたら皆すぐに同意してくれましたよ」

 

 それは驚きとともに納得のいく答えだった。おそらくはいくつかの仕組まれた証拠を盾にして強引に事を推し進め落としていたのだろう。

 だが、傭兵というのは強制されて戦っている存在ではない。契約と報酬と義侠心によって危険な戦場へと足を踏み入れた者たちなのだ。

 道理と筋を通さずに、傭兵たちを顎でコキ使えるのだと思ったのならおめでたいという意外に他はない。

 

「俺たちもこの戦いに参加させてください」

「必ず力になってみせます」


 そう語る二人には感謝しか無い。たった一度の任務で同席していただけのはずなのに、彼らは私が今回のワルアイユの任務で傭兵としてやっていく上で、とても重要な援護を何度も行ってくれていたのだ。おそらくは彼らが動いてくれなければ、私が今ここに立っていることもなかったのではないだろうか。

 

「もちろんです! よろしくお願いいたします!」


 まさにその答えが彼らへの思いそのものにほかならない。  

 二人の次に話しかけてきたのは別な傭兵たちだった。


「あんたかい? この防衛部隊の指揮官は?」

「はい、エルスト・ターナーです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」


 傭兵として何度も死線をくぐり抜けてきたような男たちが並んでいる。見慣れない顔が多いがおそらくは別な傭兵の街の所属なのだろう。荒くれ者――それでいて義侠心に溢れた英傑たち――そう語るにふさわしい迫力に彼らは満ちていた。

 その彼らが語る。

 

「俺たちはヘイゼルトラムからやってきた傭兵だ。それと他の傭兵の街からもかなりの人数が集まってきている」

「総数340名、あんたの指揮権に服するぞ」

「トルネデアスの連中を砂漠の向こうへと追い払ってやろうぜ」

「そうだ! ここは俺たちフェンデリオルの大地だからな!」


 そう、これこそが傭兵というものなのだ。強いということ、義侠心、そして心意気――、彼らはそれゆえに戦いの矢面に立ってくれるのだから。

  

「ありがとうございます! 皆様の参集に心から感謝いたします」


 さらには東方風の異国の袴姿の青年が現れる。

 見慣れない風体だが、どことなくパックさんと似た空気を感じる人だ。その彼が名乗り出す。


「先ほどの戦象部隊壊滅の手際、見事であった。そちらが指揮官殿とお見受け致す」

「お褒めいただき恐悦に存じます。指揮官を努めさせていただきますエルスト・ターナーです」


 私が姿勢を正して名乗り出れば、袴姿の彼も自ら名乗ってくれた。


「ブレンデッド所属の2級傭兵のケン・ソウゴだ。国境線防衛部隊に参陣させていただく」


 そう告げると彼は軽く頭を下げてくる。東方でもさらに東の方に属するエントラタ風の〝会釈えしゃく〟と呼ばれる挨拶だ。


「ご丁寧にありがとうございます」

「うむ、其処許そこもとの采配の腕前しかと見届けさせていただく」

「心得ました、では詳しくはまた改めて後ほど」


 彼ら傭兵たちが名乗り出た後に、現れたのは2名の正規軍人だ。

 フェンデリオル正規軍の軍服姿であり、裾が斜めにカットされたフラックコートと白のベスト、さらにレギンス形式のズボンを身に着けている。フラックコートの色は〝鉄色〟と呼ばれる黒みがかった濃緑でありフェンデリオルの軍服を象徴する色だ。

 私がかつて2年前に軍学校で身につけていたのもこの制服だった。

 懐かしさを押し隠しながら彼らの名乗りを私はじっと待った。

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