第5話:光をもたらす者と団結の領民たち
傷だらけの帰還
それからメルト村の西へと太陽が沈む頃、その事件は起きた。
村役場でメルゼム村長やアルセラと村の情勢について話していたときだった。
「何やら騒がしいな――」
役場の建物の外の様子に村長が気づいた。
「ちょっと見てきます」
「私も同行します」
出ていこうとする村長に私も同行する。アルセラも何も言わずに立ち上がり3人連れ立って喧騒のする方へと向かっていく。
村の南西の方角、ミスリル鉱山のある方からそれは聞こえてくる。村境からやってくる人の群れがあった。
「あれは」
私はすぐにその喧騒の主に気づいていた。私が鉱山監視の指示を与えたカークさんたちだ。私は彼らの姿を見て一目散に飛び出していった。
「カークさん! ゴアズさん!」
姿を現したのはカークさんと、ゴアズさん、そして、
「どうしたおまえたち?!」
その中には鉱山労働者たちの姿もあった。
総じてけが人が多く、軽傷者が大半だったが、深い傷を負って背負われている人もいた。その彼らを率いて居たのがカークさんとゴアズさんの二人だ。
その二人もまた戦って返り討ちにあったような向こう傷を負っている。傭兵としての戦闘なら多少の傷は当たり前なのだが、私が気になったのはゴアズさんの方だった。
両腕、背中、肩、至るところに刃物の切り傷のあとがある。それはまるで誰かをかばうために自らを盾にしているかのようでもあった。
「隊長――」
明らかに一戦交えたかのような雰囲気の彼らを代表するようにカークさんが声を発した。
「何があったのですか?」
私の問にカークさんが答える。
「襲撃だ。何者かに鉱山労働者が襲われてたんだ」
そう語りながら視線で労働者たちを指し示す。矢傷、刀傷、やけどをしている人もいる。その姿に私はある疑問を問いかけずには居られなかった。
「警備役の方たちは?」
本来、重要鉱山には職業傭兵や正規軍の正規兵が警備役として派遣される事がある。だがその疑問にカークさんは顔を左右に振った。
「それが不可解なんだが、本来、鉱山と鉱山労働者たちを守るべき警備役の職業傭兵たちが〝いつの間にか〟居なくなっていたんだ。まるで示し合わせて居たかのようにな」
そしてゴアズさんも言う。
「それで労働者の方たちが襲わて負傷していたので、生命の危険を考慮してやむを得ず加勢しました」
「すまない、隊長。指示に反する結果になってしまった」
カークさんが詫びを言葉にする。私は沸き起こる胸騒ぎを抑えながら質問を続けた。
「襲撃者たちの服装や装備は?」
「俺たち職業傭兵の標準的な服装だ。牙剣も装備していた」
カークさんが言う。それにゴアズさんが続ける。
「それに覆面をしていましたが、防寒防塵用のマントのフードを目深にかぶったもので職業傭兵としてよくあるものでした。彼らはとにかく、鉱山労働者の方たちを傷つけることだけを狙ってたのは間違いないです」
ゴアズさんの言葉に居合わせた鉱山労働者の方たちに視線を向けるが一様に頷いていた。怯えるような視線があったのはよほど恐ろしい状況にあったのだろう。
私の視界の片隅では、先日パックさんと往診に伺ったルセルさんの姿もあった。彼女の夫なのだろう人物と話をしている。幸いにして深い傷は負っていないようだ。
私は問うた。
「それで敵はどうなりましたか?」
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