会議 ―告げられる真実―

 食事を終えて隣の村役場へと向かうと村長たちが揃うのを待った。

 村長のメルゼム、数人の相談役、青年部のリーダー、長老格の代表の姿もあった。その数、十人ほどで村に重要な意思決定をするときには必ず集まる人々だ。


 太陽が傾き始めた午後――

 村役場の一階奥の集会場、そこに彼らと私達の姿がある。全員が揃ったことを確かめてアルセラは村長へと目線で告げる。それを受けて村長が告げた。

 

「それではこれより、ワルアイユ領の今後についての全体会議を始める。まずはアルセラ様からお言葉をいただく」


 村長の言葉を受けてアルセラは立ち上がり、村の人々へと視線を向けて告げた。

 一瞬、表情の片隅に不安を垣間見せるが、覚悟を決めてしっかりと彼女は立ち上がった。

 

「アルセラ・ミラ・ワルアイユです。皆様、お集まりいただきありがとうございます。まずはお礼申し上げます」


 名乗り向上と礼儀と、発すべき言葉をアルセラは正しく言い終える。村の人達が頷いている。

 

「昨今、ワルアイユとメルト村が何者かに妨害を受けているのは皆様もご承知と思います。だがそれももはや耐え忍ぶだけでは解決できない段階へと入ったと私は考えます。我が父・バルワラがそのための対策を準備していたのは一部にはご存知の方もおられるかと思います」


 アルセラの指摘にメルゼム村長がはっきりと頷いていた。

 

「ですがそれも実行不可能になりました」


 アルセラが告げたのは衝撃の事実。集まった者たちがざわめくのが分かる。その困惑を断ち切るかのようにアルセラは意を決しって告げた。

 

「それに対して新たな対策を講じるために、外部から協力者を募ることとなりました」


 そう告げながらアルセラは私に視線を送ってくる。それを理解して私はすっと立ち上がる。

 

「こちらのエルスト・ターナーさんが今後の外部協力者として助力していただけることとなりました。まずはその事を宣言したいと思います」


 集まった人々が再びざわめいている。アルセラは再びそれを遮るように私へと会話のバトンを渡してきた。

 

「静粛に! ルスト隊長、お願いいたします」


 困惑の最中にある村の人達の視線が集まる中でのバトンタッチは少々きつい。でも、それもアルセラが私をそれだけ信頼してくれての事だ。これを無下にする訳には行かない。

 

「ご紹介いただきましたエルスト・ターナー2級傭兵です。まずは部外者であるはずの私の参加を検討していただき誠にありがとうございます」


 きっぱりと名乗ったことでざわめきが止まる。だが、不信の視線は消え去ってはいない。ならばある事実を明確に共有するしか無い。その時、アルセラが絶妙なタイミングで語った。


「ルスト隊長、今後のことでご意見を伺いたいのですが?」

「わかりました。ではまずは状況確認をしたいと思います」


 私とアルセラの言葉のキャッチボール、それが軽妙にかわされることでこの場の主導権は確実に私達の方に握られていた。このまま一気に押し切るしかない。

 私はアルセラに視線とともに問うた。


「お父上のことを告げてよろしいでしょうか?」

「やむを得ません」


 最終確認を終えて私も自らの私見を述べ始める。

 

「まず共通認識としてワルアイユでもアルガルドでもない〝第三者〟が介在しているのを知ってほしいのです」


 メルゼム村長が驚きつつ言う。

 

「第三者ですか?」

「はい、何者かが巧妙にワルアイユを追い込もうとしています。昨今、村の生活が妨害され追い詰められているのもその一環です」


 私がそう告げればパックさんが補足する。


「巡回医師や行商人が村に寄り付かない事や、農作物の買付人が現れない事が起きているのは皆様もご承知かと思います。それによりワルアイユの領民の方々が苦難を強いられているのは周知の事実です」


 パックさんの言葉に村の人達が納得の表情を浮かべている。思うところがあったようだ。私は続ける。


「そのとおりです。そしてバルワラ候がそれらの妨害行為に対して告発を検討していました。州政府や中央政府に訴えかけて事態を解決へと導こうとしていました。その点は村長さんもご存知かと」


 私の問いにメルゼム村長ははっきりとうなずいていた。村長の反応に疑いを持つものは誰もいなかった。そして私は一番の核心を告げる。

 

「それを前提としてある事実を聞いてほしいのです」


 皆の視線が集まる中で私は意を決して告げる。


「バルワラ・ミラ・ワルアイユ候は暗殺されました」

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