第3話:令嬢アルセラの悲嘆とルストの決意

二日目の行動開始

―精霊邂逅歴3260年8月5日早朝―

―フェンデリオル国、西方領域辺境―

―ワルアイユ領メルト村―


 私たちは太陽が地平線から顔を出す前に起床すると態勢を整えた。携帯食で簡単な朝食をとると速やかに行動を開始する。襲撃者が現れた以上、さらなる危険を防ぐためにもこの場に留まり続けるわけにはいかなかった。

 火も灯さずに身支度を終えると速やかにあるき出した。

 向かうのは、そう――メルト村だ。

 

 野営拠点から離れると私は周囲を見回した。昨日のメルト村潜入で大まかな土地感覚は理解できた。次の再集合場所を決定する。


「この分かれ道から東へ半シルド〔約2キロメートル〕ほど行ったところに高台があります。ここからも見えるはずです」


 私たちが立っていたのは分かれ道の道程票のある場所だった。左手に向かえばミスリル鉱山、、右手に向かえばメルト村へと向かう。そのメルト村へと向かうルートの途中に小高い丘陵を見つけたのだ。村全体を見下ろしつつその身を隠すのには丁度いい場所だ。

 私は部隊を2つに分けることにした。

 

「鉱山監視班とメルト村調査班とに分けます。拠点維持の残留は不要ですから。

 まず、鉱山監視はカーク2級を指揮役としてバロン、ゴアズにおまかせします。ゲオルグ大尉とラメノ通信師はそちらに同行してください」

「了解した」


 私の言葉にカークさんが同意する。そして私は続ける。


「さらに私を含む残りの5名はメルト村へと向かいます」

「昨日の調査の続きだな?」とドルスさん。

「はい、領主の身辺状況をさらに探ります」

 

 私は更に告げた。

 

「なお、鉱山監視の際に厳命があります、くれぐれも偵察と調査に徹して何があっても手を出さないように」

「何があっても――ですか?」


 そう問い返してきたのはゴアズさんだ。他の人もわずかに疑問の表情を浮かべている。ここは厳命の理由を伝えなければならないだろう。

 

「はい、あくまでも調査任務に徹するためです」

「わかりました」


 不必要な交戦は避けたほうがいいのは当然だった。異論の声は出なかった。


「では行動開始!」


 私は強く宣言する。皆が黙したままそれぞれに歩き始める。

 査察任務の二日目に向けて、私もドルスさんたちを導きながら歩き出した。

 途中何度も背後を確かめれば鉱山監視班は視界から消えていた。それを確認して私はプロアさんにそっと耳打ちをしたのだ。

 

「ルプロア3級」

「あ?」


 面倒そうに答えるが私は構わずに続けた。

 

「鉱山監視班を監視してください」

「カークのおっさんたちをか?」

  

 不審げに問い返してくる。だが私は否定した。

 

「いえ、見守っていただくのはそちらではありません」


 その言葉にプロアさんはピンときたようだ。

 

「あぁ〝アイツ〟か」


 口元に笑みをうかべて意味ありげに答える。私が意図するところに気づいたようだ。

 

「わかった。何かあったら知らせる」

「お願いします」


 そんな言葉にやり取りののちにプロアさんも私たちから離れていく。気取られないように鉱山監視班を尾行するために。


「私たちも行きましょう」


 そして私は一路、メルト村を目指したのだった。

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