シフォニアの思い出

 皆が時間をおきながら散っていく。隊長として最後の一人になるように私はじっと待っていた。そんな時だ。部屋から出て行こうとするドルスの姿を見つけた。私は駆け寄る。


「ドルスさん」


 その言葉に彼が振り向いた。

 私は彼の言葉を待たずにこう告げる。


「今回はありがとうございました」


 私は素直に礼を述べる。


「ルスト」


 私の言葉に彼は少し困ったふうに笑みを浮かべながらこう答えた。


「礼を言われるほどじゃねえ。お前は俺に勝った。お前の実力はあの時嫌と言うほど教えてもらった。ただそれだけだ」


 私は彼に問う。


「一つだけ聞かせてください」

「なんだ?」

「この数日どちらへ行ってらっしゃったんですか?」


 私の疑問に彼は答える。


「あぁ、そのことか。別に大したことじゃねーよ。墓参りだ」


 墓参り――、その印象的な言葉が私の脳裏に響く。


「どなたのですか?」


 その言葉に印象的な言葉が返ってくる。


「シフォニア・マーロック」


 その言葉に私はドルスが何を思って旅立ったのかわかるような気がした。


「お前に負けて一晩ずっと考え続けた。俺の何が悪かったのか、俺はどうすべきだったのか。そして出た答えをあいつのところに伝えに行ってたんだ」

「それで旅支度を」

「あぁ」


 ドルスさんは過去を懐かしむように意味深な表情を浮かべていた。


「フェンデリオルの南東の方にあいつの故郷があるんだ。1年ぶりに墓参りに行ってきた。そしてアイツの墓前で詫びの言葉を言ったんだ」


 私はドルスさんに聞いた。


「なんて言ったんですか?」

「『お前をだしにしてすまない』ってな」


 そう語りつつドルスさんは苦笑する。


「そしたらよぉ、いきなり雷落ちてきやがった。あいつが怒ってるみたいにな」


 そう語るドルスさんの顔には過去にとらわれているような翳りはなかった。


「俺はあいつをいつのまにか自分の心の中で亡霊にしちまってた。そんなんでまともな仕事ができるわけやねえ」


 そして少し天を仰ぐようにして語り始める。


「2年前、あいつが亡くなった時、隊長補佐をしていたのは俺だった。武力で劣るあいつを補佐役である俺が守ればいい、そう思ってた。しかしそれは間違いだった。隊長を守りきれなかった俺は降格処分となり3級に降ろされた。正規軍を追い出され傭兵としても自信を持てなくなった俺はヤケになっていた。それを目を覚ましてくれたのはお前だ」


 ドルスさんは私をじっと見つめながら告げてくる。


「ありがとうよ」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 私も微笑み返す。今ならこの人を信用できそうだ。

 真剣な表情で彼は告げる。


「いいか? 今度の仕事は前回のような哨戒任務とはまるで違う。どんな敵が現れるか全くわからん。自分の身は自分で守れ。俺がお前に隊長役を託す唯一の条件だ」


 それは条件というよりも願いだった。仲間を失いたくない、切なる願い。私はそれを無碍にはできない。


「心得ています」


 私の言葉を耳にして彼は私の右肩を叩くと会議室から出て行く。その背中を私は、いつのまにか頼もしいと感じていたのだった。

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