ドルス、威圧する
「遅れてすいません。ルドルス・ノートンです。旅から帰ってきました」
驚いた私は彼の名前を思わずつぶやいていた。
「ドルス……さん?」
「おう」
調子良くそれでいて少し面倒くさそうに彼は私に返事をする。そしてなぜだか彼は私の頭に手を置きながらこう告げた。
「招集されている人員編成に異議があります」
「なんだと?」
「納得できないって言ったんすよ」
正規軍人の彼からの反論にドルスは言い返した。
「このメンツを見て疑問に思わないんすか? ルストの嬢ちゃんをハブいちまったら誰が隊長やるんですか? まさかダルムのじいさんにやらせようてんじゃないでしょうね?」
ドルスの言葉にダルムさんも言う。
「それは俺も感じてた。60手前の俺にゃ今更隊長役なんて無理だぜ」
そうニヤリと笑いながら告げると私やドルスに意味ありげに視線を投げてくる。以前にもどっかであったやり取りだ。
「そういうこった。3級職の連中は当然として、2級職の連中も隊長としての指揮権は自ら放棄してるか凍結されてるかだ。残る人物はギダルムさんだが、彼は高齢だし、なにより今まで隊長役をやったことがない。今までやってきたのは隊長の補佐役なんだ」
意外な言葉を口にするドルスに、ダルムさんが続けた。
「その通りだ。今まで俺より年下の隊長の補佐役しかやったことがねえ。何しろもとは執事してたからな、自分が指揮するよりも誰かを手伝うことの方が俺には向いてるんだよ」
もっともな言葉を並べられて正規軍人の彼は苦虫を噛み潰したような表情だ。
彼も彼とて上司から命令として厳命されているのだろう。容易には曲げられない理由があるのだ。
だがそこでドルスが言う。
「それじゃ、妥協案と行きませんか?」
「なんだと?」
〝妥協案〟その言葉に正規軍人は食いついてくる。ドルスにしてみればしてやったりという感じだろう。その言葉を逃さずに彼は言った。
「ルストが隊長というのは譲れません。しかしそれだけではそちらのメンツが立たんでしょう。ですからギダルム・ジーバス準1級を隊長補佐とするというのはどうでしょう?」
ドルスの提案に正規軍人の彼の表情が変わった。
「元々補佐役としてならダルムの爺さんも実績があります。そしてこちらとしてもルストが隊長なら納得できる。それでも納得できないと言うなら――」
そこでドルスは一瞬言葉を貯めるように息を吸い込むと言葉を吐いた。
「――俺はこの件から降りる」
それは脅迫だった。真剣なまでの脅迫。一介の3級傭兵が正面から正規軍人に迫ったのだ。私みたいな小娘のために。
ほんの少し沈黙していた正規軍人の彼だったが、意を決して決断する。
「分かった、その妥協案を飲もう。隊長補佐としてギダルム準1級、隊長としてエルスト2級を指名する。それで良いかね?」
場を見回す正規軍人の彼の視線に皆が沈黙で同意していた。
「反論がないので同意したとみなす」
そして彼の言葉は私へと向かう。
「そういうことだ。失敗は許さんぞエルスト2級」
私は明快な声で答えた。
「はい! 全力で任務に当たらせていただきます!」
私のあらたな隊長職が始まった。
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