超訳田村草子・新世紀陸奥話記〜東北防衛ロボットと巫女達の伝説〜
京城香龍
序章
悪路王と田村麻呂の復活
2010年に入ってから、東日本大震災や原発事故、絶え間ない大雨により東北地方の大地は疲弊していった。
先祖代々東北地方に住み続けた人たちも、藩政時代より続く非合理的な旧習に嫌気がさし、自分たちが暮らす東北地方、旧陸奥国と出羽国への不満を積もらせていった。
積もり積もった生まれ故郷への憎しみは、東北=奥羽を呪われし大地へと染め上げていった。
その結果、東北地方の各地にあった鬼の封印が次々と解かれていった。
岩手県盛岡市にある三ツ石神社 鬼の手形
宮城県柴田郡村田町にある鬼の手掛け石
福島県二本松市の黒塚
山形県高畠町の妙多羅天堂
秋田県男鹿市の赤神神社
青森県五戸町を流れる浅水川 出刃洗の滝
それぞれの割れた封印の跡からどす黒い雲のようなエネルギー生命体が出てきた。
“鬼”の正体である。
球体となった鬼のエネルギー生命体は東北の上空に集まった。
「悪路王様!お久しゅうございます!大嶽丸にございます!」
「千と2百年ぶりか…我らが住処にしていた土地も大きく穢れたものよ」
「なぁに、悪路王様の神通力があれば穢れなんてあっという間よ!」
「人間らの欲望を抑えられるのは悪路王様しかおりません!」
「復活した我々がなすべきことはただ一つ!」
「この奥羽の土地と住まう人々の心と誇りさえも蹂躙し、穢れをまき散らしたヤマト王権の後継政権を壊滅させる事!」
「いざ出陣っ!」
「おおーっ!!!」
エネルギー生命体の鬼たちが勝鬨を挙げたその時、西日本の方から清らかなエネルギー生命体が3体飛翔してきた。
「そうはさせん!」
「その声は!?」
「悪路王、そして悪鬼羅刹ども、北天の化現にして毘沙門天の化身“坂上田村麻呂”がいる限り、お主どもの好きにはさせぬ!」
清らかなエネルギー生命体の正体は、平安時代初期に征夷大将軍として蝦夷征伐を成し遂げた軍神、坂上田村麻呂とその妻、鈴鹿御前に田村麻呂の腹心の部下、文屋綿麻呂の三体だった。
「田村麻呂!?なぜここに!?」
「鈴鹿御前!?お主まで!?」
「文屋綿麻呂…お前まで!?」
「夫婦と部下と揃って復活とは毘沙門天の加護は本当のようだな。だが、千年近くに渡り人間の負の力を糧に蓄えてきた某共とは力の差はどうかな?」
「何っ!?」
「皆の者、かかれっ!」
「先鋒人首丸!いただき!」
「おおっと阿計徒丸も忘れんなよ!」
黒い鬼のエネルギー生命体は、田村麻呂・鈴鹿御前・綿麻呂の三体のエネルギー生命体に一斉に襲い掛かる。
「なんの!
田村麻呂のエネルギー生命体は自身の銘刀
-ガッ
田村麻呂は特に因縁深い大武丸と人首丸と当たった。
「ぐぐっ…なんとっ…これほどとは…」
「田村麻呂殿、千年近く力を蓄えてきた我々の力を侮りめさるな!!」
予想以上の大武丸と人首丸の神通力に田村麻呂は完全に押されていた。
「こうなったら…
田村麻呂が毘沙門天に真言を唱え念じると、田村麻呂のエネルギー生命体は突然大きく光りだした。
「何だ?」
「何があったんだ!?」
光りだした田村麻呂のエネルギー生命体は鈴鹿御前と文屋綿麻呂のエネルギー生命体を取り込み、東北の地上へと落下していった。
「あれー!?」
「田村麻呂様~!?」
田村麻呂はそのまま東北の大地に消えた。
その様子を見ていた悪路王たち悪鬼羅刹のエネルギー生命体は一瞬呆気にとられていたが、すぐに我に返った。
「悪路王様、田村麻呂を追撃しましょう!」
「奴は奥羽の何処かに墜落したハズです!」
「わかった!まずはこの地上で動き回るための“鋼鉄の体”を手に入れろ!追撃はそれからだ!」
「御意!!」
悪路王の命令に従い鬼達のエネルギー生命体も東北の地上に降り始めた。
こうして、平安の御代から現代の御代で田村麻呂と悪路王の新たな戦いが人知れず始まったのである。
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