03
鏡探しを本格的に行う前に、地理の確認に行く事にした。
なにせ最初から迷子だったのだ。
探してる間に湖に戻れなくなっても困る。
「地の道に詳しいのは狐だな。」
「おう、じゃあ案内してやるよ。」
狐さんの案内で森を歩く。
「そんなに大きい森じゃないから、主要な道がわかれば迷わないさ。」
狐さんは立ち止ると、目の前に続く道を指さした。
「この道を真っ直ぐ行くとカミキョウゲツ、反対に進めばシモキョウゲツ。
ま、今は森から出られないけどな。」
「あ、割と近かったんだ。」
「こんな森で迷うなんてお笑い種だぜ、カナコちゃん。」
「ぅう、お恥ずかしい…。」
森は慣れてる方だけど、山になると少し勝手が違う。
「あっちは行かねぇ方がいいぜ、性質の悪いのが巣食ってる。」
狐さんが笑みを引っ込めて言う。
「俺も、アイツは狩る気になんねぇ。」
「何がいるんですか?」
「鴉さ。」
それを聞いた瞬間、脳裏に映像が走った。
「あ…。」
「どうした?」
「いえその、烏って、ヒカリモノ好きですよね。
森に入る前も、何か光る物を運んでる烏を見たんですよ。」
「はん、なるほど?」
狐さんと二人であごに手を当てて考えていると、
「可能性としてはありますね、成程。あのクソガラスですか。」
「ぅわビックリした。」
背後から突然聞こえた声に驚いて振り返った。
「でたな兎。」
狐さんは眉を顰めて呟いた。
「その子はなんです?遂に悪事を働いたんですか。」
「カナコちゃん連れ込んだのはアンタん処の姫さんだよ。」
「比売さまが?…まあいいでしょう。」
兎さんは私を正面に据えてひとしきり眺めると、
「・・・。ふぅん、雑種じゃないですか。」
「ざ…」
いやまあ、確かに純血ではないけれど。そんな言い方をされたのは初めてだ。
「こんなのが入ってきてしまうとは。
早いトコご神体を見つけて安定して貰いませんと。」
こんなの…
「気にすんなよカナコちゃん。この兎、口悪ぃんだよ。」
「あ、はい。ぁ、いえ。えーと兎さん、初めまして。カナコといいます。」
「挨拶とか要りませんよ。と言いたい処ですけど。
いいでしょう、こんな時ですし。僕は御津比売さまの神使を務めています。」
然も不服そうな自己紹介だ。
「えっと、…みつひめさま…?」
途端、兎さんに厳しい眼で睨まれる。
「姫さまの名前さ。俺らは姫さまって呼んでるけど、本名は都築八重御津比売ってエライ長い名前なんだよ。」
ワケが解らず困っていると、狐さんがこっそりそう教えてくれた。
ツキハエノミツヒメさま…確かに呼び辛い。私も姫さまと呼ばせて貰おう。
「とにかく、一旦戻ろうぜ。カナコちゃんも大体道解ったろ?」
「はい、ありがとうございました。」
「そうですね。それなりに有用な仮説も出ましたしね。戻りましょうか。」
「比売さま、戻りました。」
兎さんと共に戻った私達を確認して、姫さまは嬉しそうに兎さんに話しかけた。
「あらご苦労様。カナコちゃんとも会ったのね。
ね?ね?カナコちゃんイイコでしょう?」
「・・・ソウデスネ。発想力は他のモノノ怪どもよりマシですかね。」
目の前で忙しなく左右に揺れる姫さまを冷めた目付きで眺めたまま、兎さんはクールに言った。
「あらぁ…。もう、兎は相変わらずねぇ。ごめんなさいねカナコちゃん。」
姫さまはこちらにすまなそうな視線をくれる。
私が何か言う前に、兎さんが進み出て話を切り出した。
「それでですね、比売さま。カナコが言うには鴉にやられたのではないか、と。」
「まぁまぁ!確かに、鴉はキラキラしたもの好きだものねぇ。」
姫さまの素直な反応に対して、狐さんは少々引っ掛かる処があるようで。
「まあ持ってかれたってのもありそうだけどさ。どうかねぇ。」
「あのクソガラスならやりかねませんよ。なんの不審が?」
眉を顰めた兎さんに、意地の悪い笑顔で狐さんが顔を寄せる。
「社の中にあったものを?今まで興味を示さなかったのに?突然?」
「確認してみればいい。鴉なら蒐集物は巣に貯めてるだろう。少し覗かせて貰おうか。」
間に割って入ったのは梟さんだ。
嫌な予感でもしたのか、兎さんの後ろから鼠さんが顔を出す。
「誰が行くんだよ?」
「木の上なら、鼠か梟でしょう。今すぐちゃっと確認してきて下さい。」
「梟でしょココは常考!」
兎さんに摘み出された鼠さんは、じたばた暴れて木の陰まで走って行った。
…気の毒だ。
「じゃあ、私行きましょうか。」
「もうもう、本当にいい子ねカナコちゃん!
でも鴉は少し危ないし…巣の位置もわからないでしょうから、誰か連れて行ってね。
ごめんね、私今ここからあんまり動けないの。」
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