for S
@Lom0914
一,for...
異能。影では変態と言われている力。
それは人智を超えた特殊な能力を持っている者の事を指す。
そんな者は世界各地で少ないとはいえ、確認されている。だが、それを信じる者はマニアぐらいだ。漫画やゲームにしか居ないとこの世の者の大半は思っている。
俺もそう思っていた。…いや未だにそう思っているのかもしれない。 現実味がないのだ。
だが目の前のこの状況を見れば現実にかえるかもしれない。
「うおっ!? 危ねーな!!」
「グォォォアッッッ!!」
―――普段から眠たげな顔をしている金髪のヤンキー風少年の名は宇詩野(うしの)紫多草(したくさ)。
金髪なのは決して染めている訳ではなく、外国の人間だった母の遺伝、自毛なのだ。
シタクサは今日も賑わっている教室の隅でイヤホンを耳に装着して、一人、目を瞑っていた。
シタクサは周りから嫌われている訳では無い。
度々話しかけられる事はあり、それにはしっかりと面倒くさがりながらも答えている。
成績優秀、運動能力学年トップ、顔も整っているシタクサは月に三ぐらいのペースで告白をされる。
だがシタクサは毎回決まったように告白をされた女に同じ台詞を言い残してどこかへ行くのだ。
『ごめん。 興味無いから。』と。
その辛辣な口調と言葉は純粋な乙女の心を引き裂く。
また、心が折れ、泣き喚く乙女を好いている者はシタクサに勝負を仕掛けてくる。
初めの一二回はスルーしていたシタクサだが、どの道戦わないと行けないらしく、軽く気絶させて終わらせていた。
よく問題にならないものだと凄く思う。
そして、シタクサの辛辣な言葉に折れる女もいるのだが、稀に、そんな彼を振り向かせたい、という熱の高い女もいる。
それはシタクサにとっては凄く迷惑な話だ。
シタクサは女に恋愛感情という興味を一切示さない。
好きな事、一つは好きな音楽を聞くこと。 それも一人で落ち着いた所で。ので、周りに人が寄り付きにくい隅の席に座っている。 普段は教室の隅で聞いているのだが隅とはいえ、教室に甲高い女の笑い声などが響く。それらが五月蝿い為、心地良く聞くことが出来ないので苦痛だ。
そしてもう一つの趣味だが、それは…
「―――ノロマだなぁ!? もう少し速く動けよ!!」
夜の街にそんな声が轟く。
もう一つの趣味は――人間を捕って喰う化け物を狩る――
――時は遡り二年前。 当時、中学三年生。
音楽以外の娯楽に殆どの興味を示さなかったシタクサはする事が無かった。
学校に通うことも退屈で登校してもまともに勉強はしていなかった。 授業中に音楽を聴き、周りの生徒からは冷たい視線で見られる。 そして教師もシタクサを注意する。 だがそれでもシタクサはイヤホンを外さずに音楽を聴くのを止めない。
その度に生徒指導の教師が来て、保護者と相談をする。
簡単にいえば、シタクサは問題児だったのだ。
――そんなシタクサだったが学校の下校中。
毎日利用する近道、人が全く通らず、ほとんど封鎖されているに等しい道だった。夜は怖い兄ちゃん達がここに屯しているのだが、下校時の夕方にはなんの怖さもない。
だがその日の下校はそんな人の通らないこの静かな道を利用し、後悔をしていた。
シタクサの身体に気を失うほどの強さの電流が流れる。流れ出して数秒で倒れ込み、大きな電気に耐えられなくなるとその場で気を失う。
「にゃーお…」
「――ん…あっ…?」
死んだように見られていたのか、子猫に優しく撫でるように頬を舐められていたシタクサは目を覚ました。
「いてて…」
目が覚め、軽い頭痛を起こしていた。
(気を失っていたのか…。 しかも空は真っ暗だ…)
そう隣に居る人懐っこい猫を撫でながら考えていた。 そしてシタクサはポッケからスマホを取り出し時間を確認する。
「三時間経ってる!?」
下校したのが五時ぐらいだ。 そして今は八時。 三時間も気を失っていた事になる。
(早く帰らないと晩飯が抜きになる!!)
そう頬に冷や汗を滴らせながら走り出そうとする。だが、気付く。
「…ん?」
(暗くてよく見えなかったが月明かりで少しだけ文字が見えるようになっている…)
そうして目を細めて壁に書かれた文字をじっと見る。
(あっ…)
ふと思いついたシタクサはスマホをちょちょいと弄りスマホライトを壁に照らした。
「は?」
思わず声に出してしまうほどシタクサが驚いた事。
それはなんとも不気味な事だった。
『お前の使命は全ての生命に危害を与える化け物。セルヴィーツィオを消し去る事だ。』
そのペンキで雑に書かれた、不気味かつ不思議な文字を見たシタクサは脳にはてなマークを表しながら壁の他の部分を照らしていた。
「はぁ?」
今度に見つけたのはなんともこの世界ではありえないようなことだった。 だがこの文字を見て分かった。
これはイタズラだと。
『お前がセルヴィーツィオと戦う為に必要な力を与えた。 それは雷属の異能だ。 その異能を使う為には脳で雷を創造するのだ。 そして創造した後、【剣】【魔】【拘】【速】のうち一つを言葉に出して言うとその異能を使用する事が出来る。』
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