閑話・ダンジョンタウンの産声

 


 天の川銀河から遠く離れた、時間軸すら違う銀河の中にあるパンツノ惑星系の夜空に浮かぶ、緑の月・ガムの内部。


 太陽系から4柱の神が説明会に来ている。


 溢れ返る地獄の上層部の過密な状態を解消しつつ利益を出せる活気的な計画の説明会の為に。


 参加者の1人、冥界の主・冥王ハーデス。


 和名は閻魔大王。地獄に落ちる人間が増え過ぎて、通常の許容量の数倍にもなる地獄の1階層と2階層を通常業務に戻して、オーバーワーク気味の地獄の鬼達にボーナスと連休を与えたいのだが、既に冥王星の存在する太陽系に、新たに地獄を作る訳にもいかず、今回の説明会が妥当であるなら採用しようと前向きのようだ。


 説明会に関係する他の2柱を誘った神でもある。



 2番目の参加者、夜と月の女神・ルミナス。


 和名はツクヨミ。姉が参加するならとしぶしぶ参加したのだが、今回の計画の神界での放送権を確保し利益を出して、月の内部に新しく作った別荘の家具や小物をブランド品に買い替えるのが第1目的。


 人間種とモンスターの攻防の最新情報を纏めた情報誌を神界で出版して得た金銭で、月の内部に生物が住める環境を作り、兎を主体としたモフモフの楽園を作るのが第2目的。


 本来なら闇の神でもある自分も手伝わなければいけないのだが、冥王に全て押し付けた地獄行きの魂達を、少しだけ申し訳ないと思うから手伝おうと言うのが第3目的。


 単純に月に住んでても暇だからと言う理由もあるが。



 3番目の参加者、日輪の女神・天照大御神


 日本以外だと他の神が司どるので日本以外は関係ない。

 出来るだけ、異世界こちらに連れてくるなら日本人でお願いしますと現地の神に言われた冥王から頼まれて参加した日本の主神、天照大御神。


 今回の計画において、地球側の人選を任される予定で大切な役割を担う神である。


 八百万の神が存在する日本列島で、主神と言うだけで全ての事を配下の神がやってくれるおかげで、バイト程度の金銭になるような事や、少し危険な趣味の1つもさせて貰えなくて天岩戸に引き篭りぽくなっている事から抜け出したい。

 光って照らすだけなんて暇だからと言うのが参加する大きな理由のようだ。


 妹が参加すると言うのも説明会に参加した理由の1つである。



 4番目の参加者、日本の弱小土地神・丸兎の尊。


 この神は、日本では一地方の弱小土地神なのだが、パンツノ惑星系の世界では主神の1柱でもある。


 日本で暮らしている時は、常日頃から道祖神や仲間の土地神などと行う会議で司会をしていたので、今回の説明会の主催者であるパンツノ惑星最高神から司会を依頼されている。


 古来より太陽系の主神である3柱の神に対してプレゼンをしなければならない事を知らされていなかったようで、緊張して油汗がにじんんで胃を抑えている。


 持参した胃薬は、みずみずしい世界樹の若葉のようだ。




 内部がダンジョンを主体にした大きな街が数ヶ所作ってある月の中で、4柱の地球の神を迎えるのは、パンツノ惑星系最高神、守護神ニノ。


 元は地球出身であり、日本に住んで居た事が長かったので、日本神にほんじんがいいなあ、くらいの感覚で天照大御神とツクヨミを。


 常日頃から、冥王が店長兼料理人を勤めるお好み焼き屋で、暴食の魔王ベルゼビュート監修・冥王お手製お好み焼きを2割引で御馳走になっている冥王ハーデスの仕事量を少しでも減らせればと、冥王を。


 どうせなら1番仲の良い友神ゆうじんでもある丸兎の尊に自由になるお金が入れば良いなと。


 思い付きで始めたダンジョン惑星計画だったが、地球から招かれた4柱の神が前向きな事で、成功間違いなしとタカをくくっている。


 失敗したらパンツノ惑星の植物資源を少しだけ放出すればいいかな?補充するのなんて簡単だし、なんて軽く考えている。





 街を歩きながら3柱の神がパンツノ惑星の2柱の神の話を聞いている、手に持っているのは今回の説明会のパンフレットとペン。


「こんな感じでダンジョンモンスターには働いて貰います。」


 空中に投影された画面を見ながら説明する丸兎の尊。


「ダンジョンモンスター達の主な収入源は何処から出るのだ?」


 冥王ハーデスは、案内されているダンジョンタウンを見て本気で参加を決めたようだ、既に働く者達の収入を心配している。


 答えたのは丸兎の尊。


「しばらくはパンツノ惑星の最高神ニノが出します。しかしそれも動画の収益から利益が出るまで、予定としては100年程は手出しの予定です。」


 パンフレットの中にある余白にダンジョンモンスターの収入100年手出し予定、と書き込む冥王ハーデス。



 参加者側の質問が続く。


「日本から召喚される転生者・転移者の給料や期間はどうなるの?」


 やはり日本の主神・天照大御神である。

召喚される日本人の待遇が気になるようだ。


「最初の半年は講習期間と言う事で、寮に入って貰います。その際も東京都の最低賃金を目安に24時間給料は発生しますし、1回だけ月の基本給の1.8ヶ月分のボーナスも支給されます。」


 メモを取る冥王と、覚えようとする天照大御神。


「講習期間を過ぎたら、ダンジョンに挑戦して貰い、ダンジョンで確保した利益に税金を掛けずに全て日本人の転生者・転移者の物とさせて頂きます。」


 汗をかきながら説明をする丸兎の尊。


「転生者の場合は、こちらの人種に転生して貰うので返却は出来ません。」


 転生だから返却なんて望まないわよ、とつぶやくツクヨミ。


「転移者の場合は、此方こちらの物質で肉体を再構築しますが、地球へ返却時に地球の素材で再構築し直す予定です。」


「記憶の消去はしませんが、関係者以外に話せないように制限を付けて返却予定です。その際に地球側の事も配慮して、大きな歴史に関わる人間は除外して欲しいです。」


 パンツノ惑星側の2柱の神に説明されて、選ぶのは簡単ね、とツクヨミと相談し始める天照大御神。



 最大のダンジョンタウンのメインストリートと思われる大通りの一角に、大きな電波塔が立つ建物ある。

その中の最上階の鍵付きの一室に自動販売機の並ぶスペースがある。


 その部屋に入り、パンツノ惑星系最高神ニノが1台の自動販売機を指さして、説明を始める。


「地球からダンジョンタウンへの行き来は、こちらの転移門をお使いください。1回百円の使用料をいただきますが。それぞれの自宅付近にも1台ずつ同じ物を設置させて頂きます。」


 自動販売機の横に転移門が開く仕様になっているようだ。


 行先は、パンツノ惑星聖域・神の家横、高天原・天岩戸前、月内部・新築の別荘前、関東・丸兎の尊宅前、大阪・冥王邸押し入れ内部となっている……ん?大阪?


「おお、各神かくじんの自宅から直接出退勤出来るんだな。」


「これなら昼間は私、夜は姉さんが来ればいいか。」


「曇ってる日なら2人でも良いんじゃない?」


「私のやしろも有料なんですか?」


 4者4様の反応である。



 現地人の居住区予定の街に来た冥王から少しだけ苦情がくる。


「地獄の上層の住人と言っても、償いもしていない者を普通の建物に住ますのはどうかと思うがな。」


 それに答えたのはツクヨミ。


「動画映えしてくれないと人気コンテンツにならないでしょ、これくらいなら良いんじゃない?どう思う。」


「どう見ても廃墟よねこれ……。」


 現地人は、太陽系とパンツノ惑星系の地獄の住人。


 地獄の1階層と2階層で毎年抽選で10万人が選ばれ、この街で罪を償う事になる。


 償いとは、異世界ガムの人生で1度も罪を重ねなければ良いというもの。

 達成すれば、晴れて輪廻の輪に戻る事が出来る。


「反省せずにここで罪を重ねたら地獄に戻されるってわけだな、戻された後は、元々の階層より1つ下の階層に行かせよう。1階層と2階層の混雑も少しは緩和されるはずだな。」


 思案を始める冥王、廃墟にドン引きしている天照大御神。


「住人が自力で改築するのはOKなので、自力で何とかしてもらいましょう、地獄よりはマシだと思いますから。」


 ドン引きする天照大御神を見てパンツノ惑星主神ニノが笑顔で話しかける。


「確かに地獄よりはマシだけど……。」


 瓦礫で作られた廃墟を見ながら、参加を決めたツクヨミ。

既に動画にするならどのアングルが良いかと考えているようで、一言も喋らなくなった。



 日本人用居住区に移動を始めた一行。


「転移者の解放条件というか、転移者の日本に帰って来た後に、復活させて命を継続させる条件って何?」


 己の護る日本に住む人間がやはり気になるようで天照大御神がさらに質問を重ねる。


「パンツノ惑星側が用意した人種以外の罪人が転生したダンジョンモンスターの魂を解放する事ですね。」


 丸兎の尊が質問に答えたが。


「何体くらい解放したら帰って来れるのかしら?」


良い質問です天照様、と言ったパンツノ惑星主神ニノが。


「上級のモンスターで100体、低級のモンスターの場合は1万体を予定していますが、ある程度のランクを付けてポイント制を導入する予定です。命を失った人間を生き返らせるのですから、ある程度は難題にして、リスクもないとなので。」


 追加で丸兎の尊が答える。


「何を何体討伐したか、誰に何回倒されて誰を何回倒したかを表記する機能を持たせた各ギルドカードと、解放者ランキング・モンスターランキング表示用電光掲示板をヘカトンケイル様に発注済です。」


「日本人ってランキングとかが関わると性格が豹変するもんね。」


 ボソボソっと呟く天照大御神。


 だから先日めずらしく冥界の地下に遊びに行っていたのか、と呟いた冥王ハーデス。


 ツクヨミことルミナスは、既に動画の撮影方法を考えているようで思案中。



 ランキングが掲載されるMMOにハマっている天照大御神。


 ランキングがあれば課金システムを……と呟くツクヨミ。




 その後数ヶ月、三千世界の神々達の間で、神界向け動画サイトに投稿される、様々な冒険者とモンスターの激闘の動画を、あーでもないこーでもないと語りながら、議論を交わし酒を飲むことが流行り出す。


 動画投稿が始まってから1年も過ぎた頃には、冒険者やダンジョンモンスター達の寸評や写真が掲載されている、全神界に向けて発行される、後に神界向け雑誌の中では最大の発行部数となる月刊誌が創刊。


 ダンジョンタウン専門誌やダンジョンタウン観光雑誌が大流行の兆しを見せる。


 そして、推し冒険者や推しモンスターへ、自前の加護の付与をするために、滅多に姿を現すことの無い神々の現世降臨等、三千世界に様々な影響を及ぼす巨大コンテンツとなって行く。


 パンツノ惑星の夜空に浮かぶ4番目の月・ガムの内部に三千世界初の動画配信を主目的としたダンジョンタウンの産声が上がった。

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