同じ世界であれば
「オニイチャン♡ オニイチャン…♡」
少女は何度もそう口にしながらリセイの体に頭を擦り付けて甘えてきた。
どうやら自分のことを<兄>だと思っているらしいとは感じるものの、それにしてもここまでの態度とは十分に整合性があるわけじゃないのも感じる。
レストランでティコナ達に会った時も、馬車での移動中も、今ほどは甘えたような様子じゃなかった。敵意は見せてなくても、明らかに距離は感じた。
『もしかしたら記憶が鮮明じゃないとかかな。何となくの思い付きで行動してて、そうしてるうちにこの子の中に残ってる記憶と噛み合ってきたことで態度が柔らかくなったとか……?』
それも所詮はただの空想に等しい推測にすぎないものの、それでもいくらかは整合性もある。…気がする。
実際のところはまったく分からないにしても、今のところはこうして甘えてくれているのなら、それに応えた方がいい気がした。
こうして彼女を受け止めていれば、少なくとも敵には回らない可能性もあるし。
『だけどこういうのって、後になってまた敵に回るパターンが多い気もするし、期待はしないようにしよう……
ああでも、あんまりそんな風に思ってたら僕の<能力>がそれを現実にしちゃうのか。
だったら、『この子は僕の味方だ』って考えるようにした方がいいかな』
なんてことも思いつつ、開けた場所を歩く。
でも、特に問題もなく今は歩けているけれど、彼の感覚は、この場に不穏なものも捉えていた。
『たぶん、これ、<死臭>ってやつだよね……ものすごくたくさんのそれがあるのが分かる。きっとここは、<戦場>だったんだ……』
我慢できないほどではないものの確かに気持ちを不安にさせる<臭い>が満ちている。腰まではない草が生い茂っていて隠されているだけで、もしかすると無数の死体が放置されているかもしれないという気もした。
最近のそれではないにせよ、きっと間違いなく戦場跡だろうという確信もある。
ティコナ達がいたオトィクの街があった場所と地続きなのか、もしくはまた<別の世界>なのかは分からないにしても、もし、オトィクの街があったのと同じ世界であれば、これも歴史の一つなのだろう。
平穏にも思えたあの街での暮らしも、<軍隊>の練度の高さから考えて、ただ魔王や魔獣に備えているだけじゃないのも感じていた。完全に対人戦闘を想定した訓練も多かったから。
『はっきりとは聞かされてないけど、他の国とかとの戦争も視野に入れてたんだろうな……』
そんな風にも思う。
だからこれも、自分がいる世界の現実の一面なのだと思ったのだった。
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