待ち合わせ

いかにも高級そうなレストランという印象だったそこは、確かに<エディレフ亭>のような気軽に入れる大衆食堂とは違っていたものの、それでも、役所の人間が日常的に利用する店舗だった。


他の街の要人などを歓待することにも使われるので高級そうな作りではありつつ、そんなに畏まったところでもない。


『今日はちょっと奮発して』


という感じでいく店だろうか。


すると、ついと近付いてきた給仕に、


「お一人様ですか?」


と尋ねられ、リセイは、


「あ、いえ、待ち合わせなんです。ライラ隊長と」


応えていた。途端に給仕も得心がいった表情になり、


「こちらです」


案内された。そこは入り口からは一番遠い奥まった席で、役所でもそれなりの立場にある者達が利用するスペースだった。騎士団の一人であり、軍の部隊を率いる隊長でもあるライラなら当たり前だろう。


衝立があって他の席からは見えにくくなっているその席の近くまで来ると、一人で座っているライラの姿が見えた。


「どうぞ、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」


リセイを案内した給仕が彼に声を掛けたことに気付いたライラが、


「え…?」


という顔でこちらを見た。と同時に、顔がカーッと赤くなっていく。


「え? え? リセイ…? なんで……?」


慌てた様子がもう完全にいつもの凛々しい彼女のそれじゃなかった。成人してまだ日も浅い、少女のあどけなさが残った、ただの<若い女性>がそこにいた。


しかし、彼女のその反応にはリセイも戸惑ってしまって、


「いえ、あの、昨日、隊長の従者の女性達から隊長が僕を食事に誘ってるって聞いて、それで……!」


慌てて応えてしまう。


と、リセイの言葉にライラは全てを察したようだ。


「あ……あいつらぁ……っ!」


その様子にさすがにリセイも察した。


『なるほど、あの女性達が仕組んだってことか……』


なので、


「あの、もし僕、ご迷惑でしたらこのまま帰ってもいいですけど……」


と遠慮した。


が、それに対しては、


「あ! いや、迷惑じゃない! 迷惑じゃないぞ…っ! ちょうど私もお前とはゆっくり話をしたいと思ってたのだ。うん! ちょうどいい…!


だから座れ! いつまでもそんなところに突っ立ってたら迷惑だ……!」


慌ててそう命じた。その姿がまた可愛らしくて、リセイは、ふっと顔がほころんでしまった。


『可愛い女性ひとだなあ……』


などとも思ってしまう。


そんなこんなで、ライラが慌てた様子だったからかリセイの方が気持ち的に落ち着いてしまい、不思議とすんなりライラの前に座れた。


でも、その時、視界の隅に捉えたものが彼の頭に強い印象を残す。


「……ん……?」


反射的に思わず向けた視線の先で、何かがさっと身を隠すのが分かったのだった。


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