もしかして軍で

「リセイ、もしかして軍でイジメられたりしてるの……?」


女性三人組が出て行った後、ティコナは心配そうにそう訊いてきた。


『あんな強引で一方的に食事に来ることを命令されるとか、普通じゃない……!』


と思ってしまって。


けれど、リセイの方は、


「あ…いや、全然そんなことないよ…! すごく良くしてもらってる。隊長も副長もみんなも親切だし……!


慌てて手と首を横に振った。その上で、


「もしかしたら何か大事な用件かもしれない。だからちょっと強引な感じになったのかも。とにかくイジメられたりとかはないから…!」


リセイとしては正直に答えただけだった。けれど、ティコナは、


「本当に……?」


ぐい、と顔を寄せて問い掛けてくる。するとリセイは、


『明日は、マルムの森に哨戒任務で行くけど、一応、軍規で喋っちゃいけないことになってるし、もしかしたらそれに関係した話かもしれないからなあ……』


そう考えたことでつい視線を逸らしてしまった。


一方、その反応だけでティコナは、


『どうして目を逸らすの…!? もしかして誤魔化そうとしてる……!?』


と思ってしまう。


さすがに、彼の表情から本当のことを言っているのか遠慮して誤魔化してるのかを見抜くには彼女はまだ幼すぎた。


けれど、その様子を厨房から見ていたシンは、


「まあ、イジメられてるわけじゃないっていうのは本当だろうね。帰ってくるときに表情も明るいし」


自分の近くに寄ってきたミコナに言う。


ミコナの方も、


「だよね。辛い目に遭ってる子の目じゃないもの」


毎日、たくさんの客の顔を見て世間話をするためにも相手の表情から受ける印象などで話題を見付けることも客商売のコツの一つだったりするのもあって、その辺りを察するのも難しくない。


だから二人はリセイが軍に入ったことについては何も心配していなかった。


むしろ精悍な印象になっていきつつ表情が明るくなっていくのを見て安心していたくらいである。


もちろん、軍務は危険なこともあるだろうし、鍛錬は厳しいと、軍に勤めている知人などからも聞いている。けれど、リセイについてはすごく大切にしてもらえているのも伝わってくるから。


なので、今回のこともまずは様子見と考えていた。


とは言えティコナは納得できなくて、夕食の後、


「リセイ、背中流したげる♡」


久しぶりに湯浴みで背中を流してくれたり、


「逞しくなったね♡」


と、日課のマッサージをいつも以上に丁寧にしてくれたりもした。その中で、


「今日はどんなことしたの?」


とか、


「隊長さんはどんな人なの?」


とか、とにかくリセイから、


『本当のこと』


を聞き出そうと、彼女なりに努力したのだった。


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