無事でよかった!!
『アムギフと戦っている間、なぜかお前のことが頭に浮かんで離れなかった。お前が一緒に戦ってくれてるような気がしたんだ……
お前、何かしたのか……?』
とライラに言われたものの、リセイとしてはまったく心当たりがない。
「いえ、僕は何も……」
正直にそう答えると、ライラは今度こそ明らかにカーッと顔を赤くして、
「そ、そうか。そうだよな。すまん、今のは忘れてくれ……!」
慌ててそう言って、
「じゃあ、宿舎に帰るから。お前も気をつけて帰れよ」
宿舎に戻っていった。
「……?」
何のことかよく分からなかったリセイだったが、ティコナの家に帰るために歩き出したところで、
『あ……まさか……?』
ハッと頭に閃くものがあった。
『もしかして僕の<能力>……?』
とは思ったものの何も根拠がなかったので、
『……どう説明したらいいかも分からないし、まあいいかな』
そう考えて黙っていることにした。
ライラの部隊がアムギフを倒したという話は噂という形ですでに街に広まり、なんとも言えない高揚感に包まれている中を、リセイは帰路につく。
そうして、
「お帰り、リセイ! 無事でよかった!!」
「ただいま」と店の戸を開けた途端にティコナが駆け寄ってきて、彼の両手を掴んでぶんぶんと振った。ティコナも心配していてそれで彼の無事な姿を見たことでテンションが上がってしまったのだろう。
柔らかくてあたたかい彼女の手に包まれて、リセイは自分の顔が熱くなってくるのを感じた。女の子にこんな風にしてもらったのは初めてだったし。
「よかったぁ、本当によかったぁ……!」
忙しい時間は過ぎたもののまだ客もいる店の中で、ティコナは目を潤ませながら何度もそう言った。ベルフ捜索に向かった部隊がアムギフに遭遇した噂は客を通じてティコナ達の耳にも入っていたことで、余計に心配していたようだ。
そんな様子を、シンとミコナがあたたかく見守ってくれている。
それから、シンが、
「とにかく、今日は疲れただろう。湯浴みの用意もしてある。汗を流してゆっくり休むといい」
声を掛けてくれた。
<エディレフ亭>は宿屋も兼ねているので、宿泊客用に<湯浴み>ができるようになっている。とは言っても、残念ながら向こうのようなちゃんとした湯船にゆっくりと浸かるというのではなくて、大きな<桶>に腰までくらいの湯が張ってあるだけのものではあるが。
上水道が各家に完備されているわけじゃないから、井戸から水を運んでこないといけないので、さすがに溢れるほど湯を張るというのは贅沢すぎるというものだった。
それでも汗を流せるだけでもありがたい。
「ありがとうございます」
リセイは頭を下げて、店の奥へと入っていったのだった。
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