僕がこの世界で生きるワケ
京衛武百十
ごちゃごちゃ言わずに
人付き合いが苦手で友人も少なく、あまり華のない人生を送っていた十六歳の少年、
『なんだ…僕、こんな形で終わるために生まれてきたんだ……』
ショックと言うよりはもはや明らかな諦観の中で、彼は自らの人生の終わりを悟った。
『でも…別にいいかな。どうせ何もいいことなかったし……』
起きているのか寝ているのかもあやふやな状態の中、そんな思考だけが頭をよぎる。
しかしその時、
「汝、迷える子羊よ。あなたは選ばれました。あなたにはこれより新たな世界へと赴き、そこで生き直すチャンスが与えられたのです」
などという、女性らしき声がどこからか響いてきた。
「え…? はい……?」
わけが分からず彼が訊き返すと、その声の主は、
「あ~、いいからいいから。ごちゃごちゃ言わずに異世界転生して俺TUEEEしてらっしゃい。あなたに授けた能力は、
<どんなことでも結果的にあなたの望むとおりになる>
っていうチート能力よ。つまり、<主人公補正>の超強力なやつって感じ。
だからあなたが『死にたくない』と思えばどんな瀕死の状態からだって助かるし、敵を倒したいと望めばあなたは必ず勝ちます。女の子にモテたいと思えばモテモテになる。すごい発明をしたいと思えばアイデアが閃くし、そういうのをすっ飛ばして『お金が欲しい』と願うだけで大金が転がり込んできます。
どう? すごいでしょ? これであなたの人生はバラ色。
と言うわけでいってらっしゃ~い!」
「え? え? ちょっと……!」
わけも分からず戸惑う彼にはまったく構うことなく、声の主は一方的にそう告げただけだった。
「……」
こうして
「……マジか…?」
という呟きしか出てこない。
あまりにもありがち過ぎて、自分が異世界転生したという事実に対する感慨さえない。
だが、自分が今、手を着いている地面は確かに土の感触がするし、生い茂った木々の匂いとほのかな湿気が現実感として伝わってくる。ただ、木は生い茂ってるのに鳥の声のようなものは聞こえない。それでいて気温は暑くも寒くもなく、ほどよい感じだ。
『でも、どうしたらいいんだろう……?』
こんな時、異世界転生もののアニメとかでは早々にイベントが起きて話が動き出すはずだが……
的なことを彼が思った瞬間、
「きゃーっ!」
若い女の子らしき悲鳴が。
「ええ!? マジで……っ!?」
とは思ったものの、
『イベントが発生したのなら行くしかないのか…』
そう考えて、彼は声のした方へと、正直、及び腰ながらとにかく向かった。
するとそこにいたのは、自分と同じ歳くらいの、やや粗末な感じの服を着た、ゆるくウェーブした栗色っぽい髪が印象的な女の子であった。
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