令和に生きる忍者の俺が恋愛をしている暇はない
ぬま
忍者と姫
0話 忍者が恋愛している暇はない
忍者。
古くは日本の室町時代から江戸時代にかけ暗躍した存在であると言われている。
忍ぶ者という文字通り、彼らは隠密行動や諜報活動に長けていた。
壁と一体になり人の目を欺き、煙幕と共に消え去る。
壁や天井を地面を歩くように歩行する。
水中に数時間もの間潜伏する。
凧に乗って空を移動する。
彼らはどこからともなく表れて、どこへともなく消えていく。
それだけではない。
忍者は戦うことだってできるのだ。
懐に忍ばせた苦無や手裏剣を自在に操り強襲する。
武士も顔負けの刀捌きで殺陣を演じる。
そして、時には炎や雷すらも自在に操った。
これらの技能を、忍術と呼ぶ。
今や忍術を扱える者はいない。
あくまでも忍者は漫画や小説、映像作品でのみにしか登場しない、架空の存在なのだ。
――あくまでも、世間一般の認識では。
栗色の髪を長く垂らした少女が言葉を発した。
「
「確かに街中で火を吹けば危ない。他人を巻き添えにする可能性があるし、何より火事になるかもしれない。だから火を吹く忍術を使う機会はないだろう」
栗色の少女の質問に、黒髪を散切りにした少年が真面目な顔で答えた。
続いて出てきたのは銀のメッシュが入ったボブヘアー。
小悪魔の笑みを浮かべた少女が言った。
「ねぇねぇ佐助っち。印を結んでニンニンってやつ、実際にやったりするの?」
「やらん。あんなことをやるのは作り話の忍者だけだ。印を結んだ所で何にもならないし、無駄な動作でしかない。というかニンニンとはなんだ」
少年は無表情に淡々と、空想上の忍者を否定した。
三人目は緩いウェーブが入った金髪に、碧眼を持ち合わせた少女。
本来は人形のように整っているのに、無駄な力を入れて端正な顔立ちを歪ませている。
「むむむむむ……佐助、チャクラってどうやって練るんです? ジャパニーズ忍者は難しいです」
「チャクラなど存在しない。お前は漫画に影響されすぎだ。物理と化学をもう一度勉強してこい」
少年は吐き捨てるように言った。
現実の忍者は地味なのだ。
身体の内に秘めたエネルギーは使えないし、謎のポーズは取る意味がないからやらない。
火や刃物の取り扱いは厳しく法で律せられている。
しかし、それでも少年はこう答える。
「佐助くんって、本当に忍者なの?」
「ああ、俺は忍者だ」
忍者は確かに存在するのだ。
一見すれば平和な令和の日本でも、暗躍する影がある。
黒髪を散切りにした少年――
「次の任務へ行かなければ。俺はそろそろ行く」
佐助がそう三人の少女達へ告げた。
しかし、少女達は並んで不服そうな顔を浮かべる。
「そんな! 佐助、私とデートしてくれるって言ってました!」
「私も佐助っちと遊びたい!」
「わ、私だって! 佐助くんと、一緒にいたい……な」
少女達は佐助に詰め寄りながら言う。
「うっ……」
三者三様の魅力があるが、美少女と評して差し支えない女性達の申し出に佐助は狼狽せざるを得ない。
しかし、任務を放棄するわけにもいかない。
「すまん!」
佐助は振り返らない。
後ろから佐助を呼ぶ三つの声が聞こえるが、振り返ることなどできやしない。
だってそうだろう?
忍者に恋愛をしている暇など、ありはしないのだから。
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