第4話 勝負の行方
―――
「涼ちゃん!ついに彼氏出来たって本当?」
次の日の朝、教室に息せききって入ってきた希の言葉に俺はもう少しで食ってた卵焼きを落としそうになった。
「は?」
「あー、また早弁してる~!まだ授業始まってないのに……」
「いいんだよ。朝メシ食ってねぇんだから。」
「はぁ……あ、それよりさっきの話本当?」
「何が?」
「だから、涼ちゃんが彼氏をって話。」
「何でそういう話が持ちあがるのかね……違うよ。彼氏なんていねぇし、そもそも欲しいとも思わねぇ。」
「けど!あの新任教師の高遠が……」
「あいつが何か言ってたのか?」
「うん…安西涼の事気に入った。彼女にしたいとか何とかって言ってるみたいで……」
「…何だ……」
俺はあからさまにホッと胸を撫で下ろした。
「何だって……」
「それはあっちが勝手に言ってるだけだよ。俺はこれっぽっちも思ってねぇよ。っていうか、タイプじゃねぇし。」
「な…何だぁ~そうだったんだ。」
「何だよ、希。本気にしたのか?バカだな~」
「そ、そうだよね。よく考えたら涼ちゃんに限ってそんな事ないもんね。」
「あぁ、だから心配すんな。」
『涼ちゃんに限って』の部分にちょっと引っ掛かったが、俺は笑顔で返した。
「やっぱり涼ちゃんって格好良いね!」(注 何度も言いますがこいつは♂です)
「そ…そうっすか……」
何かやっぱりこいつ苦手だ……
「涼!大変、ちょっと来て!」
「何だよ、奈緒。そんな息きらして……」
「いいから来て!」
「だから何処にだよ?」
「体育館!」
「はぁ?」
何が何だかわからない俺の手を掴むと、奈緒は体育館に向かって走った。
―――
「何なんだよ、一体!」
俺は体育館の入り口で奈緒の手を振り払った。
奈緒はいつになく真面目な顔で言った。
「あれ見て。」
「あれって……」
指差された方向を見ると、そこには何と優と高遠の姿があった。
「あいつら何やってんだよ、朝っぱらから…」
「涼を賭けてバスケの試合してんのよ。」
「は…はぁ?俺!?」
もう一度体育館の中を見る。二人とも汗だくでボールを追っていた。
俺はそんな二人を不覚にも見つめてしまった。
「あ……」
その時、高遠と目が合った。
「何だ、見に来てくれたんだ。」
高遠が試合の途中だというのに俺の方へ向かって来た。
「いいのかよ、試合。」
「あぁ、すぐ行くから。」
「………」
「おい、高遠!」
優がボール片手に近づいて来る。怒った顔で……
「まだ途中だぞ!」
「そんなカリカリしないで。いくら負けてるとはいえ。」
「ぐっ…!」
「あ、あのさ。一つ聞きたい事あんだけど。」
ヤバい雰囲気になった二人の間に割って入って言う。
「何?涼。」
「何で俺を賭けようって話になったんだ?」
「それは……」
優が珍しく言い淀む。すると高遠が横から口を挟んだ。
「彼が先に言い出したんだ。君を賭けてバスケで勝負しろって。」
「俺の得意なの、バスケしかねぇし……」
「けど何でまた…?」
「よっぽど安西の事が好きなんだな、立石は。」
「ち…違います!」
真っ赤になって否定した優を、その場にいた一同が注目する。
「好きとか嫌いとか、そんなんじゃねぇんだよ。俺と涼は昔から…生まれた時からずっと一緒で、他の誰よりも長い時間を過ごしてきた。たぶん俺にとって涼は男とか女とか関係なく……『特別』な存在なんだ。他の何にも代えられない大切な……。だからあんたみたいな軽薄な奴に涼の事あれこれ言われたくねぇんだよ!」
「馬鹿野郎!」
『バチッ!』俺は優の頬を思いっ切りひっぱたいた。
「な……」
「馬鹿だよ、お前は…。んな事言われなくてもわかってんだよ。俺にとってもお前は『特別』だから。だけどこんな事して何になる?俺を賭ける?冗談じゃねぇ。俺はモノじゃねぇ。『特別』なんだろ?だったらこんなくだらねぇ事してんじゃねぇよ!」
「涼…ごめん……。俺馬鹿だな、ホント。ごめん……」
優は何度も謝った。
「わかればいいんだよ。」
「…格好良い、涼。」
「奈緒……」
奈緒の天然発言に俺と優は体の力が抜けた。
「なるほど。君たちは本当に仲がいいんだな。……じゃあ立石、今日はこのくらいにしておくから、また対決したくなったら声かけて。」
高遠は無駄に爽やかな笑みをこぼすと、体育館を出て行った。
「今度やったら本気で殴るからな。」
俺は優を見上げながら言う。優はそんな俺を見返した後、頬を押さえながら苦笑した。
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