Boyッシュ革命【改稿版】

革命1 BoyッシュなGirl登場!

第1話 彼女の日常


―――


「わーー!邪魔だ、どけ!ボーッと突っ立ってんじゃねぇよ!」

 俺、安西涼の大声に、廊下にいる奴皆がさっと両端に移動する。


「こら、涼!逃げんな!」

「げ、もう来やがった…」

 俺の喧嘩友達の立石優が教室から飛び出してくる。

 俺はそれを見て更に逃げようとしたが、そのかいなく捕まってしまった。


「たくっ!お前足速えーよ。」

「お前だって速くなったじゃん。この俺を捕まえたんだぜ?昔とは大違い。」

「む……昔の事なんてどうだっていいだろ?それより何だよ、これ!」

 優が自分のノートを広げて見せる。それには俺が授業中に落書きした文字がでかでかと書かれてあった。

 優とは席が隣で、奴が寝ている間に書いたのだ。


「“バーカ”だろ?」

「…ってそうじゃなくて!どういう意味だよ?」

「そのままの意味だよ。お前がバカだからに決まってんじゃん。」

「あのなぁ!」

「な、何だよ……」

 突然腕を捕まれて不覚にもドキッとした。


 いや、この『ドキッ』は別に疚しいアレじゃないからな!ただ単にビックリしただけで……って誰に向かって言ってんだか……


「お前だって女子高生なんだからな?ちっとは女らしくしたらどうなんだ?そんなんじゃ彼氏どころか彼女ができちまうぞ。」

「なっ!……そんなんどうだっていいだろ!俺は俺なんだ!ちっちゃい時からこうだったんだから今さらそんな事言われたってどうする事もできねぇよ!」

 俺は優を睨みながら怒鳴り散らした後、廊下を走って教室へと入って行った。


「まったく…じゃじゃ馬だな…。っていうか、あいつが女だって本当の事言ってる俺の方が悪くなってるのは何故……?」


 立石優、人気の無くなった廊下で誰にともなく呟く……



―――


 俺は教室に飛び込んだ後、親友の阿部奈緒に向かって不満をぶちまけた。


「あ゛あ゛~~~!優の奴ムカツク!!」

「まぁまぁ、落ち着いて。」

「だってよ、奈緒。俺の事一番良くわかってんのあいつなのに、女らしくしろなんて言うんだぜ?信じらんねぇよ。」

「でもあたしが思うに、優君は涼の事ちゃんとわかった上でそんな事を言ったのよ。」

「何だよ、奈緒。お前まであいつと同じ事言うのかよ?」

「そうじゃないわ。だってあたし、カッコイイ涼が大好きだもん!」

 奈緒が目にハートを浮かべながらそう言う。俺は何だか恥ずかしくなった。

「え?あ…そう……」

 目を逸らしながら頭をかく。そしてそっと奈緒の様子を窺って微笑んだ。



 俺と優と奈緒は幼稚園の頃からの幼馴染で、特に俺と優はその頃から喧嘩ばかりしていて、奈緒がいつも止める役だった。

 奈緒は俺にとって唯一の親友で理解者で、とってもとっても大切な人。


 ……あ、忘れてた。幼馴染といえばもう一人。


「涼ちゃん!さっきはすごく格好良かった~♪」

「出た…のぞみ……」

 俺は頭を抱えた。


 こいつは本宮希(♂)。こいつだけ小学三年生からの付き合いだが、何故か俺にまとわりついてくる変人だ。おまけにしつこい……


「あの怒鳴り声、ちょ~しびれた!優の奴もビビって何も言えなかったし。」

「あのなぁ、希……俺は別にお前のために怒鳴った訳じゃねぇんだぞ?」

「んもう!相変わらずつれないんだから。でもそこがまたカッコイイんだけどね♪」

「はぁ~~…ダメだ、こりゃ…」

 俺は希の事はほっといて奈緒に話しかけた。


「あいつ、ヤバい……」

「イッちゃってるもんね、昔から……」

「でも何故か憎めないんだけどな。」

「そうだよね。」

「何二人して内緒話してんの?僕も混ぜてよ~」

「げっ……」

 希が怪しい目つきで近づいてくる。俺は奈緒を庇いながら後ろに下がった。

 すると希の手が俺に伸びてきた。思わず目を瞑った。


「やめっ……」

『やめろ!』と怒鳴ろうと思った時、ガシッ!という音がした。

「え?」

 そーっと目を開けると優が俺らの前に立ちはだかって、希の手を掴んでいた。


「優!」

「いい加減にしろよ、希!嫌がってんじゃねぇか。」

「何だよ、優。邪魔しないでよ。」

「お前がいくら涼を好きでも、涼はお前なんか好きになんかなんねぇんだよ。諦めろ、バーカ!」

「う~ん……僕の場合LOVEというよりLIKEの方なんだけどな~。ま、いいか。ここで優と喧嘩しても無駄だからね。じゃもうすぐ授業始まるし、僕は自分の教室に帰るよ。バイバイ、涼ちゃん、奈緒。」

「お…おう……」

「バイバイ……」

 案外あっさり引き下がった希を、俺と奈緒は呆然と見送った。


「涼、大丈夫か?」

「……大丈夫だよ!」

 我に返った俺は、差し伸べてくる優の手を振り払った。


「何だよ、助けてやったのに。礼くらい言ったって……」

「頼んでねぇのに余計な事するなよ!希のバカくらい俺一人でも何とかなったんだ。なのに横から出てきて……」

「涼!そんな言い方……」

「奈緒は黙ってろ!何なんだよ……女らしくしろとか言ったり、かと思えばこんな事したり。俺は男なんだ!女なんかじゃねぇ!」

「でも、さっき希から迫られてた時の顔はちゃんと女の子だったぜ?」

 優が悪戯げな目をして言う。俺はみるみる真っ赤になった。


「ふざけんな、てめぇ!!」


 俺の渾身の叫びが学校中に谺した……



――これがボーイッシュな女子高生、安西涼の日常である。



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