113.表と裏
「――だそうだあぁ……」
「「「「ブハッ!」」」」
『ウェイカーズ』の面々による笑い声が、墓地をこれでもかと蹂躙していく。
リーダーのグレスが、セクトたちとのやり取りを詳しくメンバーに伝えたからだ。
「心の中は違うって……なんだよあいつ、聖人気取りかよ……あー、腹イテー……」
「ププッ……わ、笑ったあ……。やっぱりセクトは面白いねっ。さすがオモチャ箱だ……」
「ク、ククッ……早く箱を開けたいものだ。この手で……」
「その場にいて聞いてみたかったですねぇ――」
「――いい加減笑うのはそこまでにしておけぇ、クソザコどもぉ……」
「「「「……」」」」
グレスが不機嫌そうに口を開いたため、みんな一斉に黙り込んだ。
「今回俺がわざわざ出向いた本来の目的ぃ……それはやつらの中でぇ、誰がメンバーの呼び戻しを使えるのかという確認のためだあぁ……。実際にバニルとかいうやつは合流しているぅ。だからまず解剖ショーに邪魔なやつを排除するべきだろおぉぉ……」
「確かに……グレス様の言う通り、あのクソアマを拉致してもまた呼び戻されるんじゃ意味ねえな」
「んだねぇ。じっくりセクトの前であの子を甚振って反応を楽しみたいし……」
「ク、ククッ……。上手に、巧みにオモチャ箱を開け放ってやるべきなのだ……」
「箱を開けたら、次はどんな名言がアレから飛び出すのか、本当に楽しみですねぇ……」
その場には、既にセクトを捕まえたかのような楽観的な空気が漂っていた。それほど、彼らにとってセクトは待ち望んだ、ある意味なくてはならない存在になっていたのである。
「ひひっ……バニルを除くあの四人の中でぇ、誰が呼び戻すスキルを使えるどうかだぁ。まずゴミセクトは違うぅ。チキンなやつならすぐにバニルを呼び戻したはずだからだあぁぁ。バニルうぅ、早く戻ってきてくれえぇぇっ、キリリッ……」
グレスがおどけたように言って笑い声が上がる。
「残すのはボスと戦っていた女ぁ、口答えしてきた生意気な小娘ぇ、小便臭いガキみたいな女ぁ……このうちぃ、短気そうなおなごとまだ乳が必要そうなおにゃごは違ううぅぅ。おそらくぅ……ボスと対等に渡り合っていたあの槍おんにゃだあぁぁぁっ……」
びっしりとおでこに張り付いたグレスの前髪から、怪しげな眼光が覗く。毎日教室の片隅で、じっと誰と喋ることもなく同級生を観察することしかできなかったため、彼の洞察力は異常に鍛えられていたのだ。
「……」
俺はグレスが来た理由をあれからずっと考えていたがどうしてもわからなかっため、ヒントを探すべくその前の行動についても考え始めていた。
『ウェイカーズ』は俺を狙ってくると思いきや、バニルが狙いだった。それは何故だ? 今回グレスが一人でやってきたことと何か関係があるんだろうか。人質目的だと考えるのが自然だが、それについては疑問もある。バニルは元々そういう捕虜のような立場だったもののこっちに呼び戻されたわけで、捕まえても意味がないのは知ってるんじゃ……?
「あっ……」
わかった。つまり、やつらの次の目的は……。
「――クソセクトオオオオオッ!」
来た……。
ルベックが物凄い勢いでこっちに駆け寄ってくる。
「こっちだ!」
俺が《ワープ》を出したのは、スピカの後方だった。
やつらはおそらく、メンバーの呼び戻しを誰が使うのか見極めたくて、それでグレスが直々に調査しに来たんだろうと思ったんだ。
やつは長い間ずっといじめられていて独りぼっちだったが、その分普段からよく人を観察していて、短所や長所を深く研究していると感じた。誰もが恐れるルベックに取り入って子分になることができたのも、それが実を結んだ形なんだろう。だからおそらくもう《招集》を使えるのが誰なのかわかっているはず。
「へっ。残念だったなあ、クソセクト!」
「……え……」
だが、俺の予想通りになりそうなところで、ルベックは見透かしたように《ワープ》の前で立ち止まった。ま、まさか、フェイク……?
「覚悟しろ、クソセクト……」
「くっ……」
俺は、こっちのほうを向いたルベックに対し、急いでもう一つ《ワープ》を目前に出すも、やつはわかっていると言わんばかりにニヤリと笑って短剣を懐から取り出し、隙だらけのスピカの背中に向かって投げた。
おいおい……嘘、だろ……。
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