51.変わる世界


 固有能力【変換】Fランク


 基本スキル《スキルチェンジ》Fランク


 熟練度 Fランク


 を派生スキルとして変換することができる。


「おお……」


 俺は石板に刻まれた説明文を見て、期待で胸がいっぱいになっていた。


 Fランクなのはスキルの内容に依存するからであって、まだ有効なスキルを何も習得していないからだろう。


 ……さて、覚えたからには早速試さないといけない。バニルたちはみんな興味津々の様子だったが、まずは一人でやってみたいということで我慢してもらって、俺は一旦外に出た。間違って柱とか変換して宿舎が崩壊したらと思うと怖かったからだ。


 まず庭の片隅に置いてある、草花に水をやる古い如雨露に狙いを定める。これはスピカが愛着を持ってて、廃棄するのは可哀想というので残していたものだが、スキル変換で役に立つならと使用を許可してくれたものだ。


 バニルが説明してくれたが、スキルを使用するには名前を言う必要はなく、変換しろと念じつつ対象を見るだけでいいらしい。妙に緊張するが、やってみるか……。


「……」


 気配でわかったが、みんなこっそり二階の窓から見てるな。まあいいや。気になるのは当然だし。


 俺は仕切り直して如雨露を見つめた。


 変われ、変われ、変わってくれ……!


 ――あれ? ちっとも変化しないぞ。俺のやり方が間違ってたんだろうか……? ふと思い立って石板を見たら……


《恵みの手》……? Eランクスキルで、説明には手から水を出せるとあった。


「あ、あはは……」


 本当だ。俺の手から水が出てる。如雨露みたいに、左手の五本の指先からジョロジョロと。


 でもこれ、冷静に考えるとあまり使えなさそうだな……。そんなわけで、バニルたちがいる方向から押し殺すような笑い声がするのも時間の問題だった。






 あれから俺は基本スキル《スキルチェンジ》を使い、庭で色んなものをスキルに変換した。


 物を変換しても対象が消失しないことがわかったのが大きい。薪割り用の斧は、手が少しの間斧に変わる《ハンドアックス》で、Eランクスキル。右手を長く変化させられるようになると面白いかもしれない。その調子で折れた剣や槍なんかも変化させておいた。いずれも似たような効果だ。


 ちなみに薪自体を変化させてみたら、《ファイヤーウッド》というFランクスキルになった。


 ……試しに使ってみたんだが、効果はそのまんまで対象物を薪に変えてしまうスキルだった。そこらへんの雑草でも薪に変わったこともあって、便利そうかと思ったがすぐに元に戻ってしまった。熟練度を上げれば使えないわけでもなさそうだが、なんとも微妙だ……。


 気を取り直して、塗装が剥げたぼろい椅子やベンチをスキルにすると、《夢椅子》というEランクスキルになった。使用すると、立っているのに座っているような不思議な感覚がしてなんともくせになりそうなスキルだ。あまり熟練度を上げる気にはなれないけど……。


 ――気が付けば、赤くなった庭が夕の刻だと主張してきた。あれから草花や納屋や樽、食器等、夢中で色んなものをスキルにしてきたが、楽しかったためかあっという間に感じた。


 パッと色んなところから花や雑草を生やすFランクスキル《幻花》や《幻草》、様々な所持品から人間一人くらいなら入れられるDランクスキル《エアボックス》、すぐに消える皿や瓶、フォーク等、片付けいらずのEランクスキル《エアウェア》、ついでに箒を変換してEランクスキルの《エアブルーム》にした。


 石板を覗くと、見事にハンドシリーズやエアシリーズがずらりと並んでるのがわかる。納屋と樽は同じ《エアボックス》というスキルで、納屋の中に並んだ樽をスキルに変えると、上書きされているのか同じ文字が輝いていた。


 大きさに依らず空間系はこれになるらしい。宿舎の柱を変えたら《ファイヤーウッド》になりそうだし、被るのはほかにも色々ありそうだ。それと、箒は武器系とは区別されたようだ。まったく使えそうにないスキルから、そこそこ使えそうな便利なものまで幅広く覚えることができたと思う。


 今までやってきてはっきりとわかったのは、その派生スキルのランクが上がれば上がるほど変換させるのに時間を費やしたということ。難易度が高いものほど変換しにくいのかもしれない。


 あと、違うスキルは上書きされないので幾つも派生スキルを覚えることができるということ。同じスキルを使用する場合、連続では使えずに少々間が開いてしまうということ。


 今までどれくらい覚えたのか確認するべく石板に親指を当てると、固有能力とスキルの項目が既に2頁目までいっていた。さらに、覚えた派生スキルの中で最高がDランクだったので、この時点で俺の固有能力はFランクから一気にDランクとなった。


 どれだけランクが低いものがあろうと、ランクが高いものが優先されるんだ。これの熟練度を磨いたらそこそこいくかもしれないが、ほかにもどんどん覚える予定なので鍛えるスキルについてはある程度習得してから考えるつもりだ。


 ――あー、変換させるだけなのに結構疲れちゃったな。いい匂いがしてきたし、そろそろ飯のようだ。続きは食べてからにしよう……。

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