パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
1.そこにいる理由
「ククッ……さっさと歩け。このうすのろめが」
「オイコラ、おせーぞ、能無しがよお!」
「ひひっ。カスはのろい……」
「……うぅ……」
俺は重い荷物と罵声を抱えながら、ひたすら歯を食い縛って歩いていた。
もう少し、もう少しだ……。断崖絶壁の上にある狭い道で、少し空いた行列の先には教会がそびえ立っているのがわかるので、それが自身を奮い立たせてくれた。
俺は村の学校を卒業したから、証書さえ見せればあそこで固有能力を貰えるんだ。だからもう少しの我慢だ。そしたら俺は逆転してやる。このパーティーカーストの最底辺という立場から……。
地元の幼馴染同士で組んだ非公式パーティー『ウェイカーズ』だったが、それはいつしか自分にとって居心地の悪いものに変わっていった。
どうしてそうなったのか、今だからわかる。俺がお人よしだからだ。嫌われることを極端に恐れていた。俺のことを優しいやつだと言う者がいたが、単に臆病なだけだ。それが周りのやつらを増長させてしまったのかもしれない。まだ17年しか生きてないとはいえ、この先が思いやられそうだ。
性格というものは変えようと思って変えられるものではないし、この立場を変えるには圧倒的な力を持つしかない。強力な固有能力さえあれば可能になるはずなんだ。
俺は子供の頃から、村を訪れてくる吟遊詩人からそういう武勇伝を幾つも聞かされてきた。仲間内で疎外され、離れようと考えていた者が強い固有能力を持った途端、パーティーカーストで最上位になり、今や有名パーティーのリーダーになったとか。だから普段便利屋扱いされてる俺にもチャンスはあるはずなんだ……。
「おい、何ニヤついてんだよ、クソセクト!」
「うっ」
尻に強い痛みが走る。俺の後ろに回り込んだやつがいて、そいつに蹴られたんだ。動きが速すぎると思ったら、やっぱりあいつだった。
『ウェイカーズ』の一人、ルベック。通称、赤い稲妻。
俺とは真逆の乱れた格好――わざとなのか裾がジグザグにカットされた服、頬に彫られた短剣のタトゥー、膝まで覆う色褪せたズボン――をした、真っ赤な髪を逆立てた吊り目の男で、動きがとにかく俊敏であり、喧嘩になると後遺症が残るか死ぬまで相手をとことんボコることから、畏怖を込めてそう名付けられた。固有能力持ちの冒険者すら何人も再起不能にしたっていう噂もある。
「おい、何黙ってんだ。俺と喧嘩したいのか?」
「……すみません」
「へっ。チキンが」
「うっ……」
間近で凄まれた挙句、顔に唾を吐かれた。
ルベックは一応俺の幼馴染で、昔は女の子と人形遊びをするような大人しい男の子だったんだが、悪い仲間とつるんで喧嘩を重ねていくうちにこうなってしまった。
悔しいが、少しでも逆らえば殺されるかもしれないし黙るしかない。俺は喧嘩が弱いというか、臆病なせいで手を出せないタイプなんだが、これも強い固有能力を授かることができれば変わるはずなんだ。
「――大変だね。僕も手伝うよ、セクト」
「あ、ラキル。ありがとう……」
荷物が少し軽くなったと思ったら、後ろからパーティーメンバーの一人、ラキルが押してくれていた。
裾の長い服とズボンをベルトで固定しただけの、自分と似たような地味な格好だが、細長いマフラーがアクセントになっていてお洒落な一面もある。メンバーで唯一親しい友で、よく相談に乗ってくれるナイスガイだ。片目が青い髪でやや隠れた男で、普段は寡黙だが二人きりになると普通に話してくれる。
俺と同じように中背中肉の体格で青白い肌なのにやたらと喧嘩が強くて、クールデビルと呼ばれて恐れられた男なんだ。あの赤い稲妻ルベックでさえ一目置く存在だ。最近は病気のせいとかで見かけることが少なくなったが、やはり固有能力付与ってことでパーティーに加わっていた。
「ルベックのことは気にしないほうがいいよ。いざとなれば僕がセクトを守ってあげるから」
「うん……。ラキルは本当に頼りになるよ」
こういう良い仲間がいるから、俺はパーティーカーストで底辺になっても耐えることができたんだ。
「あらあら、セクトさんにラキルさん。お二人とも仲がよろしいですね……」
「あ、ど、ど、ども……」
「やあ」
「ふふっ。私も手伝おうかと思いましたが、お二人の邪魔はしたくないので遠慮しときますね……」
爽やかな微風を残して少女が通り過ぎていく。メンバーの一人、カチュアだ。俺、まだドキドキしちゃってる……。
通称、黒いオアシス。腰に大きなリボンのあるワンピースに十字架のペンダントを下げた、腰まで漆黒の髪が伸びた透き通るような肌の美少女で、見かけるといつも笑顔で手を振ってくれる子だから、内気な俺は彼女に惚れていたものの言い出せずにいた。
それを知っているのは相談に乗ってくれたラキルくらいだ。そのおかげで日頃のストレスも大分軽減できた。この二人がいるからこそ、俺がこのパーティーでずっとめげずに頑張ることができたといっても過言ではなかった。
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