数百年前に倒された魔王軍の魔族の少女を蘇らせてみた!
みずみゆう
第1話 魔族の目覚め
ナグナ王国の王都にある研究室で、私は世界のある歴史書を読んでいた。
かつて、この世界には魔王と呼ばれる存在がいた。
魔王は、魔王軍と呼ばれる組織を作り上げ、この世界を支配しようと企んでいた。
魔王の手下には多くの魔物がいたのだが、その中でも魔王には十二人の優秀な部下、魔王軍幹部と呼ばれる存在がおり、魔王軍は、彼らを中心に活動を続けていたらしい。
魔王軍は、次々に人々を襲い、王国や村を滅ぼしてていったのだが、それには立ち向かったのが、勇者と呼ばれる存在であった。
勇者は仲間たちと共に、魔王の十二人の幹部を全て倒すと、遂に悲願であった、魔王の討伐に成功したらしい。
倒された魔王達の魂は、現在も神界の”神の牢獄”と呼ばれる牢獄に閉じ込められており、彼らは”永遠の罪人"として、永久的に封印されているらしい。
そして世界は平和になりましたとさ。
めでたしめでたし。
ーーーと、ここまでなら良くある話で、私からしてもつまらない話ではあるのだが、私が気になったのは魔王でも勇者でも無く、魔王の十二人の幹部であった。
この歴史書には、魔王や勇者達の絵が記されているのだが、当然、魔王の十二人の幹部の絵も描かれていた。
その中でも私が注目したのは、魔王の十二人の幹部の一人、”クヨ”と呼ばれる魔族だった。
クヨは、角としっぽが生えている魔族の少女であった。
クヨの能力や、犯した罪などがこの歴史書にはずらずらと記されているのだが、そんな事は私にはどうでも良かった。
私がクヨの絵を見て思った事、それは
“この娘、凄く可愛い!”
そう、私は魔族の少女を見てみたかったのである。
魔族は、人間から忌み嫌われる存在であり、古くから人間と魔族は敵対関係にあった。
魔王軍の敗北以降、世界中で”魔族狩り”が行われ、魔族は次々に駆逐されていった為、今このつまらない平和な世界には、魔族は存在しなかった。
それはどうでもいいのだが、私はクヨの姿(イメージ絵だけれども)を見た瞬間、ビヒン!!と反応してしまった。
これは性癖だとか、私の趣味とかじゃなくて、あくまで研究対象として、魔族の少女を見てみたかったし、彼女が勇者との対決の際に、どんな事を思っていたのかとか、魔王軍の事などを彼女に聞いてみたかったのである。
私は歴史学が専門で、世界やこのナグナ王国の歴史について日々研究している。
死んだ人間をこの世へ蘇らせる事は、ナグナ王国というか、この世界が禁止しているのだが、私はやるつもりだ。
クヨという魔族の少女をこの世へ蘇らせる!
私はナグナ王国の歴史を研究している事もあり、ナグナ王国の王族からの信頼も得ている。
こんな巨大や王都のど真ん中に王家公認の研究室を作ってくれたのだ。
だから、王族もきっと許してくれるだろう。
他は、知らないし、神界の神々は怒るかもしれないけど、私の探究心は収まらない。
どうしてもやってみたかった。
長い事私は魔族の復活について研究していたのだが、魔族はそもそも人間の体の構造が全く異なっていた為、死んだ人間を蘇らせる事よりも、簡単そうではあった。
魔王軍と勇者が戦っていた時代、魔族達は死んだ魔族の仲間を蘇らせる魔術を使用していたらしい。
その魔術も王族から譲り受けた歴史書に普通に書いてあった。
王族の馬鹿どもの小さくて乏しい脳ミソでは理解出来ないであろう記述も、私なら容易に理解できた。
なぜならば、私は天才だからだ。
というわけで、私の研究室には、広い実験室があるのだが、ここでちょいとクヨを蘇らせてみる事にする。
蘇らせる方法については、ここには書けないので、そこら辺はよろしく。
私は書かれていた魔族の復活の為の魔術を使用した。
簡単簡単。
すると、忽ち眩い光に研究室が包まれる。
あまりの光に私は目を塞いでしまう。
どうだ?成功したか……??
光が次第に消えていき、研究室が元の姿に戻って行く。
!?何だあれは……
研究室の真ん中に白い繭がポツリと現れていた。
白い繭は人のような形をしているようにも見えた。
ま、まさか……これが……
私は繭の方へ恐る恐る近づく。
すると、パカーンと繭が突然割れた。
私は驚きの余り、後ろへ倒れてしまった。
一体何が……!?
すると、繭の中には一人の少女がいた。
少女は目を閉じており、眠っているのか分からないが、意識が無いように見えた。
黒髪の頭の上には二本のツノが生えており、やはり、勇者に倒された時に消失してしまったのか、衣服は着ていなかった。
彼女がクヨ……魔王軍の幹部で、魔族の少女なのだろうか?
いや、そうに違いない。
魔術は成功したんだ!
数百年前に死んで、天界に囚われていた魂を私はこの世に呼び戻したのだ!
流石私、天才だなあ!
とりあえず、声を掛けてみる事にする。
「ええと、君がクヨかな?」
少女は眠ったままで返事をしてくれない。
ううむ。やはりダメか。
私は繭から少女を取り出そうとする。
ふむ、以外に軽いな。流石魔族か。
私は少女の体を持ち上げると、とりあえず床に寝かせる。
空いている客室も考えたが、まだこの少女の力がどれ程か分からないので、やめておいた。
……少女は寝たままで全然起きない。
見た目は人間と同じようなあどけない少女の姿である。
ツノが生えていなければの話だが。
よく見ると、尻から尻尾も生えているのも見えた。
いやいや、本当に歴史書でみたまんまの姿じゃないか。
これは凄いな。
試しに、何か物理的な衝撃を与えてみれば、目を覚ましてくれるだろうか。
もしかしたら、天界から魂を呼び戻し、元の姿を取り戻しただけで、意識は帰ってこないとか…?
まあ、数百年経っているし、仕方ないのかもしれないけど。
にしても、見た目からして人間で言うなら、14歳ぐらいの少女だろうか。
こうして、いつまでも年頃の少女の裸体をみているのも、気がひける為、何か服を着せたいと思った。
何か私の部屋に良い服があっただろうか?
だがこんな状態で着せる訳にもいかないし…どうしようか。
そんな事を考えていると、少女が不意に起き上がった。
少女はまだ意識がはっきりしていないようで、虚ろな目でぼんやりと眺めていた。
おお、やっと動いたか!
とりあえず、言語が話せるかは知らないが、話かけてみよう!
「おい、大丈夫か?」
「……ふわぁぁぁぁ…ん?」
少女は大きく欠伸をすると、私の存在に気づいたようで、こちらをみてくる。
「やあ、こんにちは。君の名前はクヨで合っているかな?」
「……うん」
おおおお!意思表示が出来た!
これは凄い、凄いぞ!!
「……?あなたは誰?」
少女がぼんやりとした声で訊いてくる。
「私はミズミ博士!君を蘇らせた天才博士だよ!」
「ミズミ……はかせ……?てんさい…?」
「おお!その通りだ!!私は天才だ!」
やはり言語能力はあるらしいな。
私の話した言葉をそのまま返せるようだ。
素晴らしい!
みたところ、クヨの体には大きな外傷などは見つからない。
「ふわぁぁぁぁ……ううん……ここどこ?」
クヨが再び訊いてくる。
「ここは天才ミズミ博士の研究室だ!ここで
クヨ、君は数百年の眠りから解放されたのだ!!私の手によって!!ハッハッハッハッ!!」
「クヨ……眠ってたの?」
「ああ、君は勇者によって倒された後、天界で数百年眠っていたのさ!それをこの私、天才ミズミ博士が解放してあげたという訳さ!」
「ゆうしゃ……ゆうしゃ……ゆうしゃ……!」
クヨの口調が変わった。
明らかに様子がおかしい。
“勇者”……
この言葉に強く反応しているようだ。
やはり、自身を倒した因縁の相手だから微かな記憶が本能的に反応しているのだろうか?
いずれにしても、興味深い。
私はますますこの少女へ興味をそそられた。
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