K06-01

 久我透哉(くがとうや)を失って、一特(いちとく)の人々は途方に暮れていた。だれもがうつむき声を発することができなかった。それは戦力として彼を失ったことではなかった。いてあたり前の人がいなくなる、その喪失感は心に大きな穴をうがった。それでも調査船はグアム島へと向かって進んでいた。


「『サースティーウイルス』の影響から脱します。船内の気圧を戻します」


園部志穂(そのべしほ)は感情のないロボットのような声で告げた。気圧をあげることでウイルスの侵入を防いでいた空調が止まり、船内に静けさが戻る。しかし、その静けさがかえって人の心をしずませた。


「アマチュア無線の帯域にて本船に交信をもとめるものがあります。回線をつなぎますか」


調査船の無線技士が告げる。


「軍の極秘行動なんてまるで意味ないわね」


陣野真由(じんのまゆ)はつまらなそうに答えた。


「野島(のじま)刑事だ。あの人、趣味がアマチュア無線だった」


山村光一(やまむらこういち)が声を上げる。陣野真由が許可をだす。


「いいわ。つないで」


「あー。こちら野島(のじま)です。一特(いちとく)の調査船の方々、聞こえますか」


ノイズに交じって野島源三(のじまげんぞう)の声が館内に響いた。


 野島源三は月の量子コンピューター『アスカ』が語ったことと桐生雅史(きりゅうまさし)から聞き出したことを皆に話した。


「じぁ。人類そのものが兵器と言うことですか。そんな。そんなことって」


園部志穂は驚きのあまり声をつまらせた。


「そう言うことらしい。人類はどこぞの天才が兵器としてつくったんだとさ」


野島源三は続ける。


「しかし、時間が我々の味方をしたようだ。人類はそのどこぞの天才が意図しなかったものを獲得した」


山村光一がマイクを握りしめる。


「なんですか。それは」


「兵器には必要ない『いつくしむ』能力。どう生まれたかなんて関係ない。大切なのは今、我々がここにいてなにができるかだ。この地球は我々が生まれ育った故郷(ふるさと)だ。『カイラギ』にはなんらかの意志がある。やつらが資源を集めているのは、なにか目的があってのことだ。どんな犠牲を払ったとしても、我々人類はそれをみとどける必要があるように思う。他人まかせに地球を汚してきた人類は、この星に暮らすすべての生き物に対して義務を果たすべきではないか。我々人類が地球の生物を駆逐(くちく)するためにつくられたものだとしたら、もう立派に数十万種の生物を絶滅に追いやっている。自らの生存を脅かすまでの環境破壊によって」


調査船のクルーは全員、うつむいたまま野島源三の話に聞き入っていた。


「頼みがあるんだ。『カイラギ』の本拠地に行ってやつらの目的がなんなのか。調べてほしい。そして、もし『カイラギ』が地球の生物をすべてを滅ぼすつもりならとめてほしい。頼む。今、それができるのはキミたちだけだ」


野島源三が語り終えた。

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