A02-05

「衛生兵、衛生兵を呼べ」


三友重工業の重機動歩兵WZ01はうつぶせに倒れたまま動かない。エンジニアやメカニックが走りより大騒ぎになっている。


「と言っても自分で転んだんだよね」


神崎彩菜(かんざきあやな)はあ然としてその姿を見下ろしていた。


「パイロットの意識がない」


「重機はないか。コックピットが下になって開かない」


コミカルな結果で終わったと思ったが事態はかなり深刻なようだ。人型の兵器である場合、戦車などの戦闘用車両とは異なってどのように転ぶかわからない。ハッチ一つとってもロボットアニメのようにはいかないのだった。その点、BMD-A01のコックピットは前方だけでなく両サイドにも開閉機構をそなえていた。


 神崎彩菜は下を走り回る人たちに声をかけた。


「私が起こします」


頭上から女の子の声が聞こえてきたので、驚いて右往左往していた人々が止まって見上げた。BMD-A01の感覚器官と一体化した神崎彩菜は下からのぞかれているようで恥ずかしかった。


「お願いです。どいてください。踏んじゃいますよ」


人々が慌ててBMD-A01の下から離れた。BMD-A01はゆっくりとたWZ01のもとまで歩き、両手で抱き抱えて仰向けにした。すかさずメカニックの一人が駆け寄り、胸にのぼってコックピットを開こうとする。


「だめだ。開閉機構がつぶれている。キミ。コックピットのハッチを開けてくれないか」


BMD-A01に向かって叫んだ。


「やってみます」


神崎彩菜はWZ01の側によってハッチと思われる胸の金属の隙間にBMD-A01の指を差し込んで思いっきり引いた。


ガゴン。


留め金が壊れる音とともにハッチが開いた。シートベルトに座ったパイロットは気絶していた。メカニックはコックピットの中に入って、パイロットの胸に手をあてる。

「大丈夫だ。心臓は動いている。ありがとう。キミ、名前はなんて言うの」


「神崎です」


神崎彩菜が答えるとメカニックは手を振りながらお礼を言った。


「そうか。神崎さん。ありがとう」


「どういたしまして」


「キミののる機体はいい機体だ」


「ありがとう」


神崎彩菜はWZ01の胸に日本刀を突きたてなくて良かったと思った。金属でできた固い装甲を刀で切り裂くのは難しかった。固い装甲の相手の場合は、突き刺せと彼女は教わっていた。


 兵器と言うものは不思議なもので、いざ戦闘が始まると中に人がのっているのを忘れてしまう。罪悪感が薄れてしまうのは過去の戦争がいくらでも証明している。敵が『カイラギ』で、人間でないことが救いだった。

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