M03-02

「A01より本部へ。指定海域に到着」


オペレーションルームに神崎彩菜(かんざきあやな)の元気のいい声が響きわたった。


 園部志穂(そのべしほ)はあわてて、インカムをつけると自分のモニターの前に座った。さっきまで『フェイクスキン』を装着した山村光一をネタにゆるんだ空気だったオペレーションルームが一気に引き締まる。


「本部よりA01へ。了解しました。T07へ。周辺海域の索敵をおこなってください」


「T07より本部へ。了解」


久我透哉(くがとうや)の返答がかえってくる。


「T07より本部へ。パッシブ(受動式)ソナーのAI解析、問題なし。続いてアクティブ(能動式)ソナー開始」


ポーン。ポーン。ポーン。


索敵用のソナー音がマイクを通して指令室に響きわたる。


「T07より本部へ。アクティブも問題ありません」


「ドローンより水中カメラ付き中継ブイ投下。超音波通信に切り替えてください」


「A01了解」


「T07了解」


園部志穂の指示に次々に返答がかえってる。


『Z13了解』


最後に陣野修(じんのしゅう)の返答がモニターに打ち込まれる。園部志穂(そのべしほ)は水中戦闘マニュアルに従って次々に指示を出していった。


「本部より各員へ。散開して、模擬戦を開始ししてください」


「そろそろはじまるわね。山村(やまむら)刑事。お待ちかねの『バイオメタルドール』同士の戦闘が見られるわよ」


陣野真由(じんのまゆ)は、身を乗り出してモニターをのぞき込む山村光一(やまむらこういち)に告げた。


「あのー。カメラは1個だけですか。良く見えませんが。もっとこう臨場感のある映像とか」


「残念ね。アニメみたいにはいかないわよ。限られた情報で戦闘を支援するのが本部のオペレーターの役割よ。水深が深くなったら太陽光もとどかないのでカメラさえ役に立たないわ」


「えー。そうなんですか。じぁあ、彼らはどうやって戦うんですか」


「『バイオメタルドール』のゴーグルには強力な水中ライトがついているわ。それでも光がとどくのはせいぜい十数メートルといったところ。水中生物と同じで耳に頼るしかないわね」


山村光一は自分が想い描いていたものより、実際の戦闘がいかにきびしい状況でおこなわれているかを思い知らされた。


 神崎彩菜のBMD-A01はライトを消して、水中に沈んだ商業ビルのかげにひそんでいた。聴覚の発達した久我透哉のBMD-T07と戦闘を交えるのは後回しにして、陣野修のBMD-Z13を先に落とす作戦にでた。BMD-A01は脚部に尾びれを装着した特殊装備なので水中での機動力はBMD-Z13より優っている。それに前回の地上での模擬戦の敗北を認めたくなかった。


 陣野修のBMD-Z13のが背中の呼吸器官を使って、水流をはき出しながら近づてくる。彼女はパッシブソナーのAI解析を使ってBMD-Z13の位置を感じ取っていた。


「わなにかかったわね」


BMD-Z13が頭上を通過しようとしたタイミングで、彼女はBMD-A01の尾びれを一気にふった。

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