K01-01

 30センチの正方形に切り取られた透明度の低い再生ガラスが並ぶ木枠の窓から太陽の光が容赦なく差し込んでいた。古ぼけてところどころギシギシときしむ廊下を歩きながら、山村光一(やまむらこういち)は隣を歩く野島源三(のじまげんぞう)に尋ねた。


「野島さん。『カイラギ』っていったいなんなんですかね」


野島源三は吐き捨てるように返した。


「さあな。俺にはわからん。だが、奴らと戦うのが、中学生と言うのは気に入らん。昔から子供は大人が守るものと決まっている」


「そうなんですか。僕が子供の頃に好きだったロボットアニメなんかでは、たいがい小学生か中学生がパイロットでしたが。僕も巨大ロボットにのって暴れたかったです」


山村光一の言葉に野島源三は顔をしかめた。


「おまえは山奥の田舎者で戦争の悲惨さを知らないからな」


二人はその後は無言で歩いた。


「ついたぞ」


 野島源三は『神崎彩菜 14歳 面会謝絶』と書かれた木札が掛けられた木製の引き戸の前で止まった。山村光一はそっと引き戸を引いたが、たてつけの悪い戸はガタガタと大きな音を立てた。二人が中に入ると軍服に身を包んだ女性が出迎えた。野島は胸のポケットから警察手帳を取り出して、彼女に言った。


「八王子警察署のものです。軍部には所長の方から連絡がいっていると思いますが」


彼女は黙ってうなずくと、二人を窓際に置かれたベッドの前に案内した。ベッドの上ではパジャマを着た女の子が一人、天井を見つめながら横になっていた。長く伸びた艶やかな黒髪。たまごのようにつるりとした小さな顔に、大きな瞳。おそらく泣いていたのだろう。まだ幼さの残る少女の目は赤く充血していた。野島源三は彼女にも警察手帳を見せた。


「神崎彩菜さんですね」


少女がコクリとうなずいた。


「君が助けた少年の件でお話をうかがいにきました」


野島源三の言葉で彼女は起きあがろうとしたが、うまく上体を起こせないようだった。


「彼、助かったんですよね」


彼女の言葉には願望の様な強い意志がこもっていた。


「ああ、君のおかげた。かすり傷一つない」


「よかった」


彼女の顔に少女らしい笑顔が戻った。彼女がもう一度起きあがろうとしたので、横にいた山村光一が彼女の肩に手をそえて手伝った。そのはずみで、彼女の体にかけてあった薄い毛布がするりと滑って床に落ちた。


「うっ」


山村光一は彼女の脚を見て思わず口に手をあてた。彼女の両脚の膝から下がなかった。きれいに整った顔。細い首。そこから続く均整の取れた体。大人になったらきっとものすごい美人になるだろう。そう思えた彼女の脚は、まるで大きなハムの端のように不自然に途切れていた。山村光一は茫然とそれを見つめるしかなかった。


「山村」


野島源三は少し怒気を含んだ声で彼をとがめた。山村光一はわれに返って毛布を拾いに走った。彼女は自分の足元を見つめてから山村光一に向かって声をかけた。


「気にしないでください。この脚は私がしたことの結果だから」

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