AKIΛVA

4seasons

第1話

彼女の名前はAKINA。彼女と言っても恋人でもない。まだ友達にもなっていない。


そして僕の名前は太樹。


 だが僕は彼女のことを知っている。彼女は僕のことを覚えているかはわからない。多分覚えていないだろう。


子供の時 僕は彼女の住む街によく行った。三多摩地区に遊びに行ったわけでもない。

両親の仲が悪く、祖父母の家に預けられたのだ。


閑静な住宅街に祖父母の家はあった。大きな間取りで総平家建ての小さな庭のある大きな家だ。


僕は祖父母に連れられてPARCOに行ったことがある。祖父母は孫の僕が喜ぶのではないかと出来たばかりのショッピングセンターに連れていってくれたのだ。


歳の離れた僕に合わせてくれたのか、祖父母は僕にとても優しかった。

祖父母と僕では視点が 興味がまるで違っていって祖父と繋がっていた手が離れると僕は走り出してしまう。


僕は人混みをかき分けて行く。祖父母は声を掛ける。

その前に僕の姿を祖父母は見失っていた。

「太樹 タイキ 帰っておいて 迷子になっちゃうよ」

走り出している太樹には届いていない。雑踏の声 音に入り混じってしまってかき消されている。


「シュワッチュ」という声がマイクで増幅され、館内に響き渡っている。そしてその声の主に目掛けて太樹は人混みをかき分けていく。


大きな大木のような大人たちを避けて 避けて前に進んでいく。


男の子なら誰でも正義の味方 ウルトラマンだ。彼太樹にとっも同じ歳の子と同じように最高関心事項である。


ウルトラマンは時たまスペシュウム光線のポーズをとり、誘導するように手招きをする。


隣には ウルトラマンのそばには毒蝮三太夫さんがいる。フルハシ隊員がいる。


屋上に怪獣が現れたと演じている。不思議なのは子供たちを怪獣から避難させることなく誘導していく。


もちろんその中に太樹もいた。太樹もまた屋上へ導かれていった。


僕は今ならわかる。ウルトラセブンが好きだったわけではないし、ましてや正義の味方が好きなわけではなかった。



生きる目的が欲しかったのだ。力を込めてウルトラセブンを応援した。子供には少し複雑さがあったウルトラセブン。


キングジョーがやられてしまうと大きく盛り上がった歓声。

一瞬静かになる。

太樹の耳に女の子の泣き声が耳に入ってきた。


それを宥めるお姉さんの声に太樹は振り返った。長い髪を1束にポニーテールにした女の子が見えた。


泣いていた女の子がポニーテールをした女の子の横から顔を出した。太樹と目があった。泣いていたことが恥ずかしいのか顔を隠す。 


少し背の高いポニーテールした女の子の影に隠れた。涙を拭ってまた顔を出す。


泣いた子が笑ったみたいに笑顔を見せる少女。

「なに? なに」と振り向くポニーテールの女の子。


子供の頃は誰かが泣いているともらい泣きをしてしまう。

寂しさ 哀しみを共有化してしまう。

太樹もまたその子の哀しみに包まれて同化して涙が瞳に溢れてくる。


僕が初めてアキナを見た瞬間。太樹はまだ小学校にも上がっていない。6歳の思い出のかけらである。


その年の夏には1週間祖父母の家に泊まった。お爺ちゃんが昼寝をするとテレビを見るのをやめて外に出かけた。


小さなボールをもって外に出た。サッカーをやろうとボールを蹴れる場所を探しに外に出た。

「どこに行くんだ 太樹」

「サッカーをやりに行く」


「河原がいいな」そう言うとお爺ちゃんは太樹を連れて外に出た。


ゆっくりと歩く祖父の歩幅に合わせて太樹も小走りについて行った。


高い高井祖父に感じた。そして太樹の視界の端にやはり高い高いが煙突が入っていた。


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