第4話**カナタは、いま

 父、カイトとの久々の再会。

 突然現れた少女。

 旧友との飲み会と、それからニュースの話題。


 これらが、カナタにとっての、この家で過ごした数日の全てであった。

 全てが過ぎ去った今、日常の生活へ戻る前に、本当は、父に聞きたいが山ほどある。にもかかわらず、全てを呑み込み、家を出た。

 もう、どうでもよいではないか。来週からまた仕事の日々だ。面倒なことは嫌だ。

 それに、父に問うたところで、たとえ父が真実を語ったところで、何か変わるのか。物事が良い方向に動くのか。どうせ、どうにもならない。

 ただの自己満足だ。

 父を深い悲しみに再び沈めて苦しめるということをカナタは知っていたから、それならば何も聞くまい――そう決めたのだ。


 カナタの数日間――それはやはり、カナタの現実とはまた別の世界の出来事であった。まるで夏休みの、田舎の物語。クリアしたゲーム。

 もう、戻れない、引き摺ったところで何も生み出しはしない物語。

 カナタは現実へ戻るのだ。



 故郷からの帰り道、それでもUターンできる場所を見つけて減速してしまう、その度に、莫迦だな、と思った。

 実家から遠くなるほど、運転に集中すればするほど、自分は一体どこに向かっては知っているのか、今はいつなのか、一体何をしたいのか、分からなくなる。


 ほら、前を見ろ。飛ばし過ぎるな、自分を見失うな。

 前方から、カナタの車によく似た自動車がこちらへ向かってくる。近づけば近づくほど、車内も明瞭になり、カナタは運転手を凝視した。目が合った、と思った瞬間、あっという間に遠のいていく。


 なんだ、どういうことだ。自分はどうかしてしまったのだ。



――カナタは向こう側から来る数日前の自分の幻とすれ違った――。

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