第14話****月夜の恋人
――マオのノートより。
満月が少し欠け始め、水辺にうんと近付いた今宵、月の欠片に乗って外界へと飛び出そう。
こっそり、誰にも見つからないように――。
けれど、誰かが見ていた。
水の精は、人間にその姿を見られると、消えてしまう運命。そして、消えてしまう前に、見た者の命を奪うことが最期の使命だ。
目が合っている。
こんなに近くで人間を見るのは初めてだった。
精霊は、この男に触れてみたい――そう思った。
ささやかな願い。これが自分の最期になるのだ。
精霊は、岸辺に片膝を立て行けるところまで青年に近づいた。
湖が、やめろ、と彼女の脚に纏わりつく。下半身は不完全に水に浸っていた。
青年は、月の光に照らされた女の、あまりの美しさに囚われ、目が離せず、身体も動かず、口も利けなかった。
――悲しいけれど、決まりなのです。
女の口元を噤んでおり、後光さす月が、まるで女の後ろでしゃべったように聞こえた。
それからの行為は、二人とも何ということなく、まるで月が満ちて欠けるように、自然の摂理に似ていた。
周りに音はなく、水面に落ちる雫の音だけが響いている。
二人は、最初で最後の口づけを交わした。
(プールに行けてよかった。月は水面で船のように揺らめく。問題は青年をどうするか……。)
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