君は冬で立ち止まり、僕は春を歩き始める。
おきた狂
冬
○月✕日
「ねえ、今日どこか出かけようよ。」
君はただ微笑むだけ。仕方なく僕は今日も1人で出かける。色んなお店に行くも君の好きな物ばかり目に入ってしまう。これ君に似合いそうだな。これ君好きそうだな。でも買えない。今日は財布に少ししかお金が入ってないから。
○月✕日
「今日、駅前で11時に待ち合わせするのやらない?」
メッセージを送るも返事はない。仕方なく今日も僕は1人で出かける。公園に行くと空が青くて綺麗だった。君に見せたくて写真を撮ったけどなんか違くて、じゃあメッセージでって思ったけど文字でどう伝えたらいいかわからなくて困った。
○月✕日
君に電話をかけてみた。君の声が聞きたかった。何回かかけたけど全然でなかった。仕方なく今日も僕は1人で出かける。君の好きな歌が街中に流れてて思わず左を向いた。君と来てないのにね。
○月✕日
今日は1日家にいた。本を読んでたけど足音がしたから玄関を開けた。でもお隣さんが帰ってきただけだった。
○月✕日
朝寝坊した。君は起こしてくれない。仕事に行ったけどあんまり上手くいかなかった。帰ってきて君に慰めてもらおうとしたけどいなかった。
○月✕日
君のきれいな鼻歌は聞こえない。僕は歌はあんまり知らないけど君の鼻歌の曲は全部好きだ。たまに君がギターを持ち出して聞かせてくれた曲もどれも大好き。
○月✕日
テレビを見てたら君の好きなタレントが出てたから君の名前を呼んだけど来ない。仕方なく録画しておく。君がいると楽しいテレビも僕だけだとつまらない。
○月✕日
いつもご飯食べるときは君がいて何気ない話で大盛り上がりするんだけど僕1人で食べてると何の話もできない。君がいるといないと食も進まない。
○月✕日
「映画観に行こうよ。例のやつの続編だよ。」
いつもは「例のやつ」で飛び上がって興奮する君が今日も静かだ。仕方なく今日は行くのを諦めた。
○月✕日
シャンプーが切れてしまった。何の種類を買っていいかわかんなくて適当に選んでしまった。君に怒られるかな。
○月✕日
寒い。当たり前だけど帰ってきてもストーブは付いてない。
○月✕日
大きなくしゃみをした。君は怒らない。いつもなら怒るのにおかしいな。
○月✕日
温かい朝ご飯も美味しいお弁当もほっとする夕ご飯もない。電子レンジに頼る。
○月✕日
「おはよう。」
大袈裟な「おはよう」が返ってこない。
○月✕日
「いってくるよ。」
元気の出る「いってらしゃい」は返ってこない。
○月✕日
「ただいま。」
柔らかな「おかえり」の言葉はない。
○月✕日
君のことを忘れたいけど、どうしても考えてしまう。
○月✕日
君のそばに行くのが怖い。こんなに近くにいるのに。
○月✕日
君にはもう会えないのかな。
○月✕日
今日も君の声は聞こえない。
○月✕日
君はどこにもいない。
○月✕日
実はわかっているんだ。
君がもうこの世にいないことは。
もう考えたくなくて忘れたいんだけどさ、一緒に住んでるのに君とふざけて待ち合わせごっこしたのも僕がしばらく出張していると寂しがって電話かけてきたのも全部忘れられない。
君を探したんだ。どこかにいる気がして。
病院で昨日まで話してたからって病院に行ったし君が息抜きしてるじゃないかって思って公園も行ったし好きな映画館も洋服屋もアクセサリー屋も行ったけど何処にも君はいなくて。でも受け入れられなくて君が戻ってくるんじゃないかってアパートに1日いた事もあった。やっぱり君は戻って来なかった。
僕にはどうしようもないことだったんだけど君がいなくならない方法があったんじゃないかなって思うんだ。でもそれを考える度に苦しくて辛くて逃げていっそ君を忘れたらなんて思ったんだ。だけど今も君の匂いが君の仕草が君の笑顔が君の全てが僕の中に住んでいる。
だからさ、無理だよ。僕の最期の日まできっと君を忘れることなんてできないよ。
そんなのわかっていたけど当たり前だって思うんだけど僕は君を愛してたから、大好きだから離れたくなくて信じたくなくて現実を直視できなかったよ。今もだけどね。
君は今どんな気持ちなの?僕は人生最期の日も君のことばかり考えると思う。どんなに年老いても君のことだけはずっと忘れないよ。まだ君が傍に居そうで帰ってきそうでずっとこのアパートのままだと思う。君はなんて言うかな?笑ってるかな?
「そんなんじゃいつまでも私離れできてないね。」
って。それでもいっかな、なんて思うのは僕の我儘なのかな。
君がもうこの世にいないことは今日気づいたんだ、わかったんだ。
だって君は起きてこないしご飯はできてないし部屋は汚くなるし笑い声も聞こえない。
だからわかっているんだけどわかってはいるんだけど、でもさ、もう一度だけでいい。ほんとにもう一度だけでいいんだ。
「ただいま。」
って帰ってきてよ。お願いだ。一生のお願いだからさ。
ねえ、もう一度言ってよ。
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