第25話 皇城攻防戦⑦

「お父様、勢い余って守備隊の心を折ってしまいましたわ」


 エミリアの謝罪にオルト達は苦笑を浮かべる。


「まぁやってしまったものは仕方ないな」

「確かにエミリアのせいというよりもあいつ等が勝手に折れたという感じだものな」

「そうですよ。エミリアのせいとばかりはいえませんわ」


 エミリアの謝罪に家族達は優しくそう返答する。


「しかし、それにしても間に合わなかったな」


 オルトの言葉にエミリアは小さく頷いた。


「はい、甦った領民達がくるまで嬲るつもりでしたのに……残念です」


 エミリアも残念そうな表情を浮かべた。ザルブベイル一党が甦ると同時に領民達もまたアンデッドとして甦り他領を制圧していた。制圧した後は帝都に向かうように指示していたのだが、他領で逃げ帰ってきた兵士達を始末するのに時間がかかっているようで最後の段階に間に合いそうにないのだ。


「バーリングへの報復はやりたかったろうがこの段階では仕方ないな」

「はい。死んだを嬲ることで納得してもらうしかありません」


 オルトとクルムの言葉に全員が頷いた。


「家臣達全員を集めよ。とどめ・・・を刺す」


 オルトの言葉を受けた家臣がそれぞれ散っていく。それから約一時間後ザルブベイル一党は全員が集結したのであった。



 *  *  *


「……次の攻撃で間違いなく皇城は落ちる」


 バーリングは幕僚達を集めると声を潜めながら言う。その様子を幕僚達は緊張の面持ちで聞いている。


「当たり前だがザルブベイルの目的は皇城にいる者達を皆殺しにすることだ」


 バーリングの言葉に全員が頷く。ザルブベイルが今更皇城にいるものに容赦をかけるという事を信じる者などこの場にはいない。


「我々は確かに皇城を落とす。だがその際の混乱に乗じて皇族の方々を一人でも多く救い出すのだ」


 バーリングの言葉に幕僚達は驚きの表情を浮かべつつ静かに頷いた。


「し、しかし皇城が落ちれば我々も皆殺しになるのではないですか? そうなれば皇族の方々を匿う事も出来ないのでは?」


 幕僚の言葉にバーリングは静かに首を横に振った。


「いや、ザルブベイルはなんだかんだ言って約束を守る。我らが皇城を落とすという功績を上げれば無下にはすまい」

「かなり分の悪い賭ですな……」

「だが、これしかない。あの強大な力の前に武力では勝負にならん」


 バーリングの言葉に幕僚達は沈痛な表情で頷いた。先程見せたエミリアに付き従った侍女達だけでもこの場にいる全員が殺されてしまうのは間違いない。


 蟻と巨人……


 ザルブベイルとバーリング達との関係を示すならまさにこれであった。蟻である自分達が巨人に挑むには搦め手を使うしかないのだ。


「いくぞ」


 バーリングは決意を込めた目で幕僚達を見ると立ち上がった。



 *  *  *


 バーリング軍は布陣を整えると攻撃命令を待つことにした。ザルブベイルの攻撃命令がない限りは攻撃を開始することは出来ないのだ。


(まだか……)


 バーリングはこの戦いを最短で終わらせ、皇族を一人でも救うことに意識を集中していた。皇統を残すという目的だけでバーリングは現在動いているのだ。


「将軍!! 出撃命令が下りました!!」


 攻撃命令を持ってきた伝令が叫ぶと全員が意を決して頷いた。


「出撃!! この戦いで皇城を落とす!!」

『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 バーリングの檄に兵士達が応え雄叫びを上げた。同時に幕僚達に視線を向けると幕僚の中に数十人の雄叫びを上げない者達がいた。彼らこそ皇族を逃がすための救出チームであった。

 彼らは皇城内に突入すると同時にいくつかのチームに分かれてそれぞれ皇族達を連れて落ち延びる事になっていた。バラバラになるのはそれだけ生き残る者の可能性が高くなるからである。

 一つの塊で逃げても一度捕捉されれば全滅しかない。複数の集団にばらければ一つでも生き残れば良いと言う事であった。残酷ではあるがこの状況ではこれが精一杯なのだ。


 盾を構えつつバーリング軍は進み始める。守備隊の士気は前回の戦いに比べて明らかに下がっていた。それだけ前回のエミリアの行動が守備隊に絶望を与えていたのだ。

 正門のところではリネアとレオンが未だに絶叫を放っているのが見えた。哀れに思うが今のバーリング達にとっては些細な事であった。


「門を破れ!!」


 バーリングの檄に応えるように兵士達が正門に向かって全速力で駆ける。それを見た守備隊の方から矢が放たれるがもはや覇気というものが一切感じられない。


「もうだめだ!!」

「諦めるな!!」

「くそったれ!!」

「なんでこんな事に!!」


 守備隊の方から絶望の声と叱咤する声が半々に発せられた。この状況でまだ叱咤することが出来る精神力があることは驚嘆すべきであるが、それに応える事の出来る者は少なく、しかもどんどん数が減っている。


 正門に辿り着いた兵士達が一斉にまさかりで正門の破壊を行い始めた。その際にリネアとレオンが兵士達に踏みつけられたがもはやだれもその事に気を留めることはなかった。


 バキィ!!


 ついに兵士の鉞が正門の一部分を破り風穴が開いた。正門の向こうには槍を構えた兵士達が槍衾やりぶすまを展開しているのが兵士達の視界に入る。門を破ったときにこの中の多くが血の中に沈むのだろうが兵士達は構わず鉞を振るい続けた。


「もう少しだ……お前達頼むぞ」


 バーリングが門を破る事を確信し、救出チームの者達に声をかけると救出チームの面々は緊張の面持ちで頷いた。


 しかし……バーリングの計画はここまでとなった。


「将軍!! ザルブベイルが我々に攻撃を始めました!!」


 伝令の絶叫混じりの報告がバーリングにもたらされたのである。

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