第7話 嬲る一族

“死んでからも苦痛を味わう”


 エミリアの言葉に貴族達は顔を凍らせた。エミリアの言った事は実の所、すでに刑場の観客達で実証されていたのだが貴族達は改めて突きつけられた形であった。


「さて、元凶の一人は始末しましたし、陛下いつまでぼさっとしているのです?」


 エミリアの言葉にアルトニヌスは呆然としつつエミリアに視線を向ける。


「さっさと逃げ出して皇城に立てこもっていただけないですか」

「何だと?」

「何のために皇城へ未だに攻め込んでいないと思っているのです?」


 エミリアの言葉にアルトニヌスは沈黙する。


「ふはは、やはりこいつもまた愚鈍な男だな」


 オルトの心の底から蔑んだ声に全員がビクリとする。アルトニヌスはオルトへ向かって視線を向けるがその視線には力がない。


「足掻いて見せろと言っているのだ。貴様は皇城の奥で自分の順番が来るまで震えておれば良い」


 オルトはそこまで言って貴族達へと視線を向ける。


「お前達もだ。心配するな。お前達だけでなくお前達の領も我が領民と同じように蹂躙してくれる。領にいるお前達の一族も家臣も皆殺しだ」


 オルトの言葉のおぞましさは喩えようもない。だがそれらはかつて自分達がザルブベイルに行ったものである。


「父上、それでは一度我々はこの場を離れるといたしましょう。この者共は腰が抜けておりますので我々がここにいれば動く事は叶わぬでしょう」

「そうだな。この者達は弱者であったな」


 オルトが侮蔑の視線を向けると貴族達は顔を伏せる。


「ああ、そうそう。自害などしても無駄だぞ。この愚物のように死んだところですぐにアンデッド化させる故な」


 オルトの言葉に貴族達の顔に浮かぶ絶望の色はさらに濃くなっていく。もはや絶望と言う言葉ですら生ぬるい正真正銘の地獄が展開される事が容易に想像できたのだ。


「それでは、皆様方ごきげんよう」

「すでに家族を失っている方も多いでしょうけどご愁傷様です」


 エルザピアとエミリアが皮肉たっぷりに言い放つとオルトとクルムがニヤリと嗤う。ザルブベイル一家はそのまま貴賓席から飛び降りた。


 ザルブベイル一家はそのままスタスタと死体の中を歩いて行くのが見える。立ち去る姿は完全に死の支配者達である。

 ザルブベイル一家が完全に見えなくなったところで貴族達は大量の息を吐き出した。事態は何も好転していない事は理解している。だが、貴族達はひとまず自分の命が助かった事に対して神に感謝していたのだ。

 貴賓席の貴族達は帝都に視線を向けるが所かしこで火災が起こり、それがどんどん広がっている。もはや帝都の三分の二から火の手が上がっており、ザルブベイル一党が蹂躙しているのがわかった。


「どうしてこんな事に……」

「この国は終わりだ……」


 貴族達から発せられる言葉にはまったく希望というものが欠如していた。


「何もかもこいつのせいだ!!」


 一人の貴族が叫ぶ。その視線の先にはすでにアンデッドとなっていたアルトスがいた。エミリア達において行かれた形のアルトスは突如始まった弾劾に顔を引きつらせた。


「そうだ!! こいつが不貞を働いたのがそもそもの原因だ!!」


 すぐさま他の貴族がそれに同調する。貴族達のアルトスを見る視線が厳しさを増していく。


「そしてこの娘もだ!!」

「こいつらもだ!!」


 貴族達の矛先はアルトスの側近達とリネアにも向かう。実際に貴族達は八つ当たりをしているに過ぎない。きっかけは確かにエミリアへの婚約破棄であったが、貴族達はそれを利用してザルブベイルを滅ぼしたのだから被害者意識は醜さの極致と言うべきモノだ。


「お、おい。あれ……」


 貴族達が暴発しかけた所に貴賓席に手をかける者が現れる。一人の貴族の指摘に全員の視線が集中する。


「アルメーズ卿……」

「ひっ!!」

「うわっ!!」


 貴賓席に手をかけてきた者の頭部が見えたときに貴族達から凄まじい恐怖の声があがった。

 クルムに投げ落とされた貴族の一人の顔だった・・・ものがそこにはあったのだ。貴族の顔は潰れ、頭部は砕けておりそこから中身がこぼれ落ちている。目を背けたくなるような凄惨な顔であった。


『こんな所で何をしている? 早く皇城へ行け』


 アルメーズの口からクルムの声で言葉が紡がれる。


『少し行きやすいようにしてやるぞ』


 アルメーズの死体はそのまま貴賓席に立つと死者の騎士へと変貌する。先程騎士団を蹴散らした常識外れのアンデッドへの変貌に貴族達はガチガチと歯を鳴らしていた。


『グォォォォォォォォ!!』


 騎士の咆哮に貴族達の中にはヘナヘナと座り込む者が現れた。しかし、身の危険を感じた者達は我先に出口へ向かって走り出す者もいた。貴賓席は再び大混乱に陥ったのだ。

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