第3話

「はじめまして。一条妙子と申します」


俺の目の前に座っているのは、俺の苦手な太った体形で、しかもオバサンというしかない風貌の女性だ。

この一条妙子が俺とカップリングされたお相手なのだ。


「はあ、どうもはじめまして。冨井春義です」


プロフィールを見ると年齢は45歳。

なんと俺より6歳も年上である。

妙子さんにはとても申し訳ないのだが、まるで母親を見るような気分である。

とてもじゃないが、女として意識することは無理だ。


しかし契約は破棄できない以上、彼女と3か月間は交際しなければならない。

デートの回数や場所などに指定があり、レポートを提出することも義務付けられている。


3か月たてば、それ以降の交際続行を拒否しても違約金は発生しない。

それまでは耐え忍ぶより他にないのだ


いちおうパーティーなので、飲み物や軽い食事がテーブルに運ばれてくる。

会話しなければならないのだが、何を話してよいのかさっぱりわからない。

そこで俺は、非常に無難な質問から始めることにした。


「あの~・・妙子さんのご趣味はなんですか?」


「あ、はい。そうですね~タイの音楽を聴くことです」


・・・え?タイの音楽??


これは驚いた。


実は俺もタイのポップスに関してはかなりマニアである。

CDを買い漁るためだけに、何度かタイに出かけたくらいだ。

しかし未だかつて同じ趣味を持つ日本人に、ファンミーティング以外で出会ったことがない。

なるほど、これがカップリングされた理由なのか。


「あ、俺もタイポップスは好きですね。どのあたりをお聴きですか?」


「Pバード・トンチャイ・メッキンタイとか、アサニー・ワサン、カラバオ、LOSOあたりが好きですね。女性ではニコル、チャイナドールズ」


素晴らしい。本物のT-POPマニアのようだ。


「俺もそのあたりは全部聴いてます。チャイナドールズ来日公演のときも、全部行ってますよ」


「まあ、うれしい。私、同じ趣味の人に出会ったの、初めてです。私も行きましたよ。大阪城公園のときも渋谷のときも」


「そうなんですか!それじゃ、会場でお目にかかったのかもしれませんね。大阪の時にファンミーティング主催したのは俺ですよ」


「そうだったんですか!じゃあその節はお世話になりました。うれしい、こんなところでお目にかかれるなんて」


なんということだろう。

ここから一気に俺たちは打ち解けてしまい、話が弾んでしまった。


こうして俺と妙子の交際はスタートした。


付き合ってみると妙子はとても気配りの出来る女性で、一緒に居てとてもくつろげる。

デートの時もタイポップスだけでなく、考え方や価値観に共通点が多いことが分かった。

変に見た目が良くない分、緊張せずに話せるのもいい。


少々お恥ずかしいのだが、3か月の交際の間に、俺たちは初体験した。

初めてのホテルで、処女と童貞のエッチはなかなか上手くいかず苦労したのだが、時間をかけてふたりで成し遂げたときの達成感はひとしおだった。

俺と妙子は抱き合ったまま余韻を味わっていた。



3か月後。


「さて、今日で契約の3か月間の交際期間は終了です。以後の交際に関する冨井さんのご希望をお聞かせいただきますが、その前にひとこと」


パーティーのとき司会をしていた、コーディネーターの女性との面談である。


「私たちは冨井さんの資料を精査したうえで、これ以上ないお相手とのカップリングをしております。なので私どもとしてはぜひ交際を継続されることをおすすめいたします。しかしもちろん、お断りされる権利はございます」


コーディネーターは上目遣いで俺の顔を見た。

最初の印象と違い、彼女は思っていたよりも若く見える。

もしかするとパーティーに集う女性たちが映えるように、わざと老けメイクをしていたのかもしれない


「もし、お断りされた場合・・残念ながらもはや私どもに出来ることはございません。これが最後のチャンスであることをご理解の上、決定をお願いいたします」


俺はすでに迷いはなかった。


「妙子さんとの交際継続を希望します」


「よかった・・・」


コーディネーターは初めて明るい笑顔を見せた。

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