第31話

 前日の坑道再捜索の間、邪魔岩を全てタブレットに収納してかたづけていた。

 岩一つに付きフォルダひとつ。数が多くて非常に邪魔だ。

 ひとつひとつインストールするのも面倒くさい。範囲指定すると、まとめてインストール出来ることが分かった。

 まとめてインストール出来るなら、まとめて取り出せないだろうか?


 悩んだら検証してみればいい!


 アイテムフォルダにまとめてインストールされた大小さまざまな岩、合計数百個。

 10個ぐらいを試しに指定しそのまま手を突っ込むと、とりあえずひとつは掴めた。そして取り出す。


「お」


 穴の淵に立って手を引き抜くと、握った岩の先からぞろぞろ他の岩九個が付いてくる。

 そのままどがんどごんと穴の下へ真っ逆さま。

 今まさに穴をよじ登ろうとした魔物を下敷きにしてしまった。


「よし。大きな物から出して行こう」

「じゃあ私は魔物が上がってこれないよう、撃ち落としていこう」


 ルティは魔法で魔物を撃ち落とし、悠斗はタブレットから巨岩を落としていく。

 元々大空洞の床が崩落して出来た穴だ。下には大空洞の床が落盤という形で転がっている。その上に悠斗は更に岩を落とし、迷宮の通路ごと塞ごうというのだ。


 めちゃくちゃな光景にドワーフたちは唖然とするばかり。


 迷宮の奥からどんどん湧いてくる魔物も、ある意味穴を埋める材料に成り下がっている。

 こうしてあっという間に迷宮に通じる穴が塞がった。塞いだ上から精霊ノームの粘土でかっちかちに塗り固めていく。

 あとは大空洞の床だ。


「うぅん。岩や土が足りないなぁ。どこかに落ちてないかなぁ」

「そ、それなら、鉱山の外に行けば幾らでも落ちておる。穴を掘り進める際に出た土や岩は、全て外に出して山のように積み上げておるからな」

「あ、では場所を教えてください。取りに行きますので」


 ギルムに案内され悠斗は大空洞を出る。ルティは万が一のことを考えて、穴の前で待機だ。

 戻ってきた悠斗が再びタブレットから土や岩をごろごろ落としていく。

 下にあった新しい坑道も埋めてしまったが、まぁいいだろう。どうせ先には掘り進められないのだから。


 こうして大空洞の床も、あらかた平らにすることが出来た。あとはドワーフたちの仕事だ。

 見事な大理石を切り出してきて、そこへ綺麗に並べて施工すれば完成だろう。


「しかし大空洞の下が迷宮になっていたなんて……ドワーフ族は気づかなかったんですか?」


 そんな悠斗の問いに、ドワーフたちはバツが悪そうに視線を逸らす。

 気づいていなかったのだ。

 そこへルティが嬉しそうに彼らを茶化した。


「はっはっは。大地の妖精ドワーフが、大地の下の事にも気づかないとはな」


 ルティの鼻歌が聞こえる。ドワーフ大敗だ。


「だけどこのまま坑道での掘削作業は危険じゃありませんか? いつまた繋がるか分からないし、逆に向こう側の魔物のほうから繋げようとしてくるかもしれませんし」

「うぅむ……」

「いっそ迷宮の存在を隠さずに宣伝し回って、荒くれ者共を呼び込むか……」

「荒くれ者?」

「ユウト殿ユウト殿。魔物を討伐することを生業にしている者の事だ。特に呼び名がある訳でも無いので、狩人だの荒くれ者だの、いろいろ呼ばれているのだよ」


 あぁなるほどと悠斗が理解する。

 新発見の迷宮だとしたら、手付かずの宝が多数眠っている事だろう。

 そしてドワーフらが知る限り、この山の周辺に迷宮は無かった。


 しかもこの迷宮から出てきたのは、強いのも居れば雑魚いのも居る。中次第だが、しっかり住み分けされた迷宮構成であれば、初級者荒くれから、上級者荒くれまで狩りを楽しめるかもしれない。

 

 問題はどうやって迷宮へ移動するかだ。


「それなら最初の坑道に扉を作ってみては?」

「そうじゃな。大空洞のような合言葉でのみ開く扉を設置し、内側には魔物除けの結界でも張っておけばいいかの」

「ドワーフが結界を張れるのか?」

「都合の良いことにここにはエルフがおるからのぉ」

「ふふふふふふ」

「がははははは」


 ルティとギルムが火花を散らす。悠斗には何のことか分からず、タブレットの検索機能を使った。


 エルフ。魔物除けの結界。扉。


 このキーワードで検索すると、各地のドワーフの大空洞にある魔物除けの結界が施された扉が上位にヒット。その扉はドワーフ製だが、結界魔法はハイ・エルフという古の種族が掛けた物だと書かれている。

 古のエルフ……他の一般のエルフとは氏族が違うというルティのことだろう。


「ルティ、出来るのかい?」

「出来るぞ」


 悠斗に問われるとドヤ顔で答え、「じゃあお願いしてもいいかな?」と言われれば「任せたまえ」と即答。


 こうして翌日から、迷宮へと続く道づくりがスタートした。

 悠斗はやることが無いので、代わりにポスターの作成に取り掛かる。


「ユウト様、何をお書きになられているのです?」


 屋敷の一室で机に向かう悠斗へ、バスチャンが紅茶を入れ運んで来てくれた。


「うん。荒くれ者……えぇっと、狩人とか言われてもいる人たちに、この迷宮へ来てもらうための宣伝ポスターをですね、書こうと思っているんです」

「ぽすたー?」

「あー……こうね、紙に宣伝文句を書いて、広く知ってもらうための物のことです」

「なるほど。しかしそれで何故お悩みに?」


 そう。悠斗は悩んでいた。

 宣伝するならインパクトが必要だ。そしてダラダラと長文での宣伝もダメだ。

 端的に、そして分かりやすく!

 これがポスターを作製する際の鉄則と言えよう。


 だが「荒くれ者、狩人さんいらっしゃい」と書いて、そう呼ばれる者たちに良い印象を与えるだろうか?

 狩人はいいとして、荒くれ者はダメだ。印象が悪い。


「わたくしめは探検家とお呼びしていましたね」

「あぁぁ、通称がまた増えたあぁぁ」

「申し訳ございません……」


 荒くれ者、もしくは狩人、もしくは探検家と呼ばれる皆さん、いらっしゃーい!


 これではインパクトはあっても、マイナスのイメージでのインパクトになる。


 何故だ。

 何故この世界では冒険者ではないのか!

 魔物を狩る者たち。迷宮を探索する者たち。それ以外にも金次第で頼まれれば殺し以外何でもする者たち。

 その総称が冒険者という呼び名だったら、どんなに楽だったか!


「そうだ……いろんな呼び名があるんだったら、俺がここでひとつぐらい追加したっていいよな」

「追加……どんな呼び名です?」

「えぇ。危険を顧みず、自らの力を試すため、または一攫千金を夢見るため、栄誉のため、冒険をする者たち――冒険者」

「冒険者……なんだかわくわくする響きですな」

「そう思いますか?」


 悠斗の問いにバスチャンは微笑みながら頷き賛同してくれる。


 そうして出来上がったポスターには――


【来たれ冒険者! 新たな迷宮現る。富と栄誉はきっとここに!?】


 ――そう書かれていた。


 日本語で。

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