第27話

 悠斗のえげつない魔法はその後も火を噴いた。

 ドワーフの村に侵入している魔物は他にもいて、その全てがルティ曰く、中級レベルの魔物。大型で見るからに強そうな魔物ばかりだった。

 そんな魔物を『溶岩球』で頭や心臓をピンポイントで溶かし、『俺の剣』で切り刻む。魔物の攻撃は『護りの盾』で跳ね返す。

 時折うっかり攻撃を食らって怪我をしても、ラジコンポーションで即回復だ。

 しかも攻撃を受けるたびに、負う怪我の程度もどんどん下がっていく。

 恐ろしきは「強化・∞」だ。


 だがスキルの連続しようはさすがに悠斗も堪えた様で、肩で息をするまでに。

 幸い、村に侵入していた魔物の数は5体と少なく、彼の精神力が尽きる前に全てを倒し終えた。


「ふぅ。これで全部じゃな」

「鉱山から出た魔物はこれで終わりですか?」


 悠斗はエナジーポージョンラジコンを飛ばし、何本かを頭から被った。おかげで眩暈も頭痛もせずに済んでいる。


「いや。出てきたのはまだまだおる。だがほとんどは山の中じゃ」


 ドワーフが見つめる先には、木々が生い茂る山が見える。そこへ魔物は向かったようだ。


「迷宮の中にいた魔物たちは陽の光に弱い。昼間は森に身を潜めて、夜になれば出てくるのだろう」

「あぁ……奴ら、夜になるとここに降りてきて、村を破壊して回るのじゃ。だから女子供は、どこの坑道とも繋がっておらぬ、通路用の洞窟に避難させた」

「そうなんですか。それで、穴がどうとかってさっき」


 ドワーフは落ちている岩に腰を下ろし、懐からパイプを取り出し火を点ける。

 ゆっくりとひとふかしした後、ドワーフは髭を揺らしゆっくり語った。


「坑道と迷宮を結ぶ穴を火薬で爆破するためには、一度中に入る必要がある。火薬を仕掛け点火したらドワーフ専用通路、大洞穴を通って外に出る手はずじゃったが――」


 十日前、爆破のため中へと入ったドワーフの仲間、約二十人が出てこない。待てど暮らせど、だれひとりとして出てこないのだ。

 穴の封鎖は成功したのか、最初に溢れ出てきた以上に魔物が増えてる様子は見受けられない。


「儂は仲間が戻ってくるのを村で待っておるのじゃ。ここを守る必要もあるからの」


 ドワーフは屈強な戦士だが、それは男に限った話だ。よく人族やエルフは勘違いするが、ドワーフの女性は戦闘に参加しない、普通の……いや、肝っ玉の太いちょっと腕力のある女性なのだ。

 通路用洞窟に避難した女子供を守るため、あちらにもドワーフの男たちは居る。だが逆に言うと、守る必要があるから村で仲間の帰りを待つための人員を裂けない。

 彼はひとり、この村で戦っていた。この十日間ずっと。


「大変……だったんでずね"ぇ」

「おい泣くな! なんでお主が泣くんじゃ!? しかも汚っ」


 悠斗は泣いた。社畜人生に終止符を打って、自由を手に入れた彼には泣くのも自由だった。

 だが社畜人生を送っていないはずのルティも泣いている。涙もろい二人だ。


 ドワーフは頭を掻き、それから悠斗に向かって手を差し出した。


「儂の名はギルムじゃ。恩人にはちゃんと名乗っておかんとな」


 照れ臭そうにそう名乗ったドワーフは、悠斗の名を聞き、そしてルティの――


「お前さんには助けて貰っておらん。儂の名も忘れるがいい」

「は? おい聞いたかユウト殿。これだからドワーフは器が小さいのだ!」

「なんじゃと! ただぼけーっと突っ立って見ておった小娘に言われたくないわ!」

「小娘ではない!」

「おーおー、そうしゃのぉ。エルフを見かけで判断してはいかんかったわいクソばばぁ」

「ば!? ばばぁ!? ムキィーッ」


 やはりエルフとドワーフの仲は悪い。きっと悪いと、悠斗は頭を抱えそう結論付けた。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 村の建物の中で僅かに残った無傷の家へと案内された二人は、ギルムから他にあるドワーフの村の位置を教えて貰った。


「そこで修繕を頼むとよかろう。オムプト村のギルムに紹介されたと言えば、引き受けてくれるじゃろうて」

「よかったなユウト殿。これで無事に屋敷の修繕も出来るだろう」

「そう……だね」


 悠斗はとても他所の村へ行く気になれなかった。


 困っている人が居たら助けよう。そして商品を売りつけよう!

 後半の文句は彼が生前務めていたブラックな会社の、朝礼での掛け声だ。だが前半部分は良い。実に好きだ。

 悠斗の両親も彼にそう教えてきた。祖父母もそうだ。


 悠斗には今、力がある。

 天使と女神から貰った力だが、彼のモノであることには違わない。


「ルティ。俺はこの村のドワーフたちに依頼したいと思うんだ」

「あぁ? おいおい坊主。ここの状況はよく分かってんだよなぁ?」

「ユウト殿、まさか大洞穴に取り残されたドワーフを探しに行くなんてこと……」


 眉尻を下げ尋ねるルティに、悠斗はにっこり微笑んで頷いた。

 

 そんな顔されたらルティもダメとは言えない。むしろ胸きゅんしてしまう。

 はぁっと大きなため息を吐いた彼女は、どうしてこうなったのかと嘆く。


「温泉……入りたい……ただそれだけだったのに」


 屋敷が手に入らなければこんな事にはならなかった。確かに屋敷があれば温泉近くでもふかふかのベッドで眠れる。いや、ベッドはタブレット内に収納してテント内で眠れば無問題だ。

 そうだ、屋敷なんていらない!


 と、今更そうも言えず……。


「温泉じゃと? 地熱で暖められた湯のことか? それなら大空洞の中で湧き出ておるわ――」

「大空洞はどこだ?」


 ルティの目の色が変わる。


「大空洞に今すぐ行きましょう!」


 悠斗の目も血走っていた。


「な、なんじゃ二人して。そんなに死にたいのか!?」

「大丈夫だ。ユウト殿は勇者殿だから! 信じろ!」


 ドヤッ!

 と、ドヤ顔でルティは言う。悠斗もこくこくと頷き、既に頭の中は温泉フィーバー。

 そんな一言で大丈夫だと信じる者がどこに居るだろうか。


「分かった。お前ぇらを信じよう」


 ここに居た!


 三人は村から鉱山へと続く山道を歩く。

 途中ヘタばったルティを悠斗がおんぶし、小一時間ほどで鉱山の入口へと到着した。


 その入り口は醜い魔物の集団が陣取っている。


 豚を二足歩行にしたような――


「あ、スライムだ」

「いやユウト殿。あれはオークだ」

「おっと、うっかりしていた。そうだそうだ。オークだ」


 未だスライムと勘違いしたのが抜けきれない悠斗は、久方ぶりにオークとの再会を果たした。

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