5-162 承諾








「お母様……私たちも連れて行ってください」



「え?……お前たち……も?」



「はい。お母様の世界で……今度は、一緒に……本当のお母様として……生きていきたいです」





サヤは、ヴェスティーユからの言葉にこの世界に来て一番の衝撃を受けた。

しかしその願いに対して応えられるかどうかは、この時点ではわからなかった。



無言で考えていたため、空白の時間が”答え”だと判断したヴェスティーユは……




「そ……そうですよね。私たちが……お母様と本当の家族……なんて……出すぎた真似……申し訳あ」



「お前、ちょっと……黙ってなよ」



「は……はい!?」



サヤは、少しの間黙り込んで目を閉じていた。

その間、ヴェスティーユは両手を太ももの前で組んで、おとなしくサヤの答えを待っている。




そんなに遅くない時間のうちに、サヤは結論を出す。



「わかった……連れて行ってやるよ」



「え?……ほ、本当ですか!?」



ヴェスティーユは、自分が出した提案が許してもらえるとは思っておらず驚きの声をあげる。



「ただし……いや……その……」




サヤの言葉にいつもの切れがないことを不思議に思い、ヴェスティーユはサヤの機嫌を損ねない様に声を掛けた。



「何か……あ、もしかすると難しいのですか?私たちがそちらの世界に行くことは」



ヴェスティーユは、サヤがこれから伝えることは自分たちにとって言いづらいものではないかと察知をして告げてみた。

だが、その読みは当たっていたのだった。





「あ、うーん……そうなんだよね。理論上はアンタたちもいくことは可能なんだ……だけど実際にやったことがないからできるかどうかも分からない……それに」



「それに?……何でしょうか?遠慮なくおっしゃってください!!」



ヴェスティーユの勢いに押され、サヤは腹を決めてそのことを伝えることにした。



「そうだね……アンタは”一回死なないといけない”んだよ……それに、本当に行けるかは運しだいだからね!」




サヤは、その行動に責任が負えるか判らない。

もしかしすると、ヴェスティーユの存在が本当に消えてしまう可能性もあった。



だが、その話を聞いたヴェスティーユはサヤに告げた。



「どうせお母様がオスロガルムを殺してしまえば、この世界は崩壊するのでしょ?……だったら、失敗したとしてもどっちも同じじゃないですか?」



「……あ」



ヴェスティーユの言葉で、サヤはこの先の行動を決めた。



「それじゃ、オスロガルムを消すために身体を張って協力してもらうよ……ヴェスティーユ」



「はい、お任せください!お母様!!」



ヴェスティーユは落ち着いて、サヤの言葉に返事をする。

そしてサヤは、ヴェスティーユにハルナかオスロガルムのどちらかを探してくることを命じる。




ヴェスティーユにとって、本当の幸せをもう少しで掴むことができる。

そう思うだけで、これから起こることに何一つ不安に感じることはない。


目的はオスロガルムを消して、この世界を崩壊させること――



その目的を達成させるため、ヴェスティーユはこの世界に何も未練も残らなかった。








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