5-148 悪魔の訴え
「何にもしてこないね、あれ」
「どうします?あのタイプの悪魔って西の国でオスロガルムが使っていた気がしましたが」
少し速度を上げたモイスに、ハルナはフウカと共に後方の確認をしながら話しかける。
前を向きながらその気配を感じているモイスは、追跡者が攻撃を仕掛けても援軍を呼ばないことも不思議に感じていた。
『うむ、そうですな。あのくらいのコバエなら、ワシの一息で追い払えますが……どうしますか?』
モイスはハルナからの質問に対し、別な選択肢の質問で返した。
そのことに対し、ハルナは困った表情を浮かべつつ次の行動を考えた。
「そうですねぇ……とりあえず速度を落として追いつけるようにしましょう。そこで攻撃を仕掛けてきたら反撃して、そうでなければもう少し様子を見る……ってどうです?」
『お見事な判断ですな。では、そのように!』
「もう、モイスさんってば……きゃっ!?」
モイスは急に上昇し、空に中くらいの円を描くように回ってみせた。
その円周に軌跡は、ハルナが遠心力によって自分の背中から落下してしまわないように計算された角度で行われた。
「な!?何を……」
ハルナは、ジェットコースターに乗っていたような気持になったが、それよりも急にこのような行動をとったモイスに一言言いたかった。
しかし、次のフウカの声でその気持ちもどこかに消え去っていた。
「ハル姉ちゃん、随分と距離が縮まったみたいだよ。ほら、さっきより近付いてきたみたい!」
ハルナはフウカの声でモイスへの感情をどこかに、後ろを振り向いて状況を確認した。
すると、先ほどよりも追跡してくる悪魔の距離が狭まっていた。
ハルナは先ほどの通り、相手からの攻撃を警戒する。
だが、徐々に近寄ってくるがそれに対して危険は感じない。
「モイスさん、なんか……様子が変ですよ?」
『む?……なんですと』
そういう言うと、モイスは速度を落としその場に留まることにした。
それを確認した悪魔は、さらに頑張って今よりもほんの少しだけ速度を上げてようやく目標に追いつくことができた。
ハルナたちはその悪魔と対峙し、何か少し今までと違うと感じつつも警戒を続ける。
そして悪魔は、ハルナたちが考えていなかった行動に出た。
「キーキー!キーキー!」
「――え?」
「キキーキー!キーキキー!」
「な……何か言いたいことでもあるのかしら?モイスさん、わかります?」
『い……いえ、なにも。こいつらの思念はワシらのものとは違うので何を言っているのか全く……』
モイスやラファエルたちは、同じ元素を扱えるものたちの思念は感じ取ることができるが、魔素を介して存在する者たちの意識は通じることができなかった。
おなじく魔素を扱う亜人たちは、それとは別にこの世界の共通語を話せるために意思の疎通は可能だった。
だが、低能で異属性の存在については意思の疎通は困難だった。
「どうしよう……何か言いたいことがあるのはわかるんだけど。こっちの話は通じないのかしら。……ねぇ落ち着いて、ゆっくり話してちょうだい!?」
ハルナのその問い掛けにも応じず、悪魔は相変わらず甲高い声で何かを訴え続けていた。
「……ねぇ、ハル姉ちゃん。何か大変なことが起きてるみたいだよ!」
フウカのその言葉から、この状況は動き始めた。
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