5-145 勧誘
「だ……誰だ!?」
ヴェスティーユは振り向いて、有無を言わさず瘴気の塊をありったけぶつけた。
「アタシの後ろに立つなんて……馬鹿なや……つ……」
ヴァスティーユの言葉は、目に入ってきた情報によって途切れ途切れになった。
立ち上る煙の中に、背後から近づいてきた存在のシルエットが見える。
そのシルエットは人型をしており、当たり前のような信じられないような……ヴェスティーユは目を細めて煙が晴れていく様子を焦りを抑えながら待つ。
そして――煙は薄くなり、その中の存在が認識できるまでになった。
しかしヴェスティーユがその者の名を口にするよりも先に、相手が言葉ヴェスティーユに話しかける。
『随分と酷いことをするのね……でも、何とか無事な様子ね……元気そうで何よりだわ、”ヴェスティーユ”』
「お……お姉ちゃん!!!」
ヴェスティーユはその姿を見て、駆け寄りそうになる……だが、ある思いがその行動をとどまらせた。
――”ヴェスティーユは死んだ”という事実に。
ヴェスティーユは何度も何度も、母親であるサヤに確認をした。
本当に、ヴァスティーユは死んでしまったのかと。
何度聞いてもその答えは”Yes”だった。
いつもなら、何度も同じことを聞くと”しつこい!”と嫌うサヤだが、その時ばかりはヴェスティーユの気持ちを慮ってか繰り返し聞いても怒りもせずに質問に応じてくれた。
決してその態度から、嘘を言っているようにも思えなかった。
自分たちは、サヤの瘴気を入れられて生きている。
そこには、サヤだけが感じる”繋がり”があるという。
既にヴァスティーユには、その繋がりを感じ取ることができなかったといった。
そして、サヤが言った言葉。
”アタシは、最後にアンタのことを頼まれたんだ……”
そう言って、次の言葉を繋げることのできなかったサヤの姿に嘘は感じられなかった。
だが、目の前にいるヴァスティーユは動いており、こうして自分に話しかけてくれている。
また、優しい姉が戻ってきた……そのことがヴェスティーユの心をグラグラと揺さぶっている。
”――ヴェスティーユは、私とお母様を助けるとしたら……どっちを取るの?”
ヴェスティーユは、あの時聞かれた質問を思い出した。
(まさか……こうなることを知っていて?)
ヴェスティーユは姉にヒントをもらっていながらも、こういう時の対応を考えていなかった自分を恨む。
「……ふぅ」
口元から小さな息を吐いて、身体の力を抜いた。
これもすぐカッとなってしまう自分に姉から受けたアドバイスで、これにより様々な場面で何度も助けられてきた。
しかし、ヴェスティーユが何らかの結論に達するよりも早く、ヴァスティーユは不信感を持った表情をしている妹に言葉をかけた。
『ねぇ……ヴェスティーユ。あなたも、”こちら側”に付かない?』
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