5-139 命令







その話を聞いたハルナは、何も言えなかった。


一人で探すには、時間が掛かりすぎてサヤの行動を止めることはできない。

かといって、モイスの身に危険が迫っているというのも見過ごすことはできない。



そこからハルナが導き出した答えは、サヤよりも先にオスロガルムに接触することだった。

こうすることにより、モイスも同様だがオスロガルムからダメージを負うことはない。

ハルナへの問題はあるが、四属性をうまく使うことといざとなればモイスに”壁役”になってもらえれば何とか大きなダメージは受けることはないだろうと判断した。



そのハルナの考えにモイスも賛同し、まずはラファエルがサヤを初めて見たという場所に行ってみることにした。





『それではハルナ様、ご無事で。……ハルナ様を頼むぞ、モイスよ』



『ふん!お前に言われるまでもない!!……早くサナ殿のところへ行くがいい、お前がいても邪魔になるだけだからのぉっ!』



「ふふふ、お二人は仲が良いんですね!……任せてください、必ず世界の崩壊を止めてみせますから!」





最後に形の違うそれぞれの竜は、お互いの目を見て微笑んだようにハルナは見えた。

そして並走していたシュナイドは、ゆっくりと距離を取り違う方向……サナのいる場所の方へと進路を変えていった。




そこから時間が経過しシュナイドの姿も消え、進む風の音だけが流れ続けた。

ハルナは、思い切ってモイスに話しかけた。



「……ついてきてくれて……ありがとうございます、モイス様。それと、さっきは……その……ごめんなさい」



『何をハルナ様が謝ることがございましょうか……我らはハルナ様に頼るしかない身、そのお方が詫びる事など何一つございません』



「ちょっと、そういうの苦手なんです……私。大したことができるわけでもないですし、たまたま別の世界から来て、この世界の人たちより”ちょっと?”だけ変わってただけで……エレーナやステイビルさんの方がこの世界では立派ですし……いや、私はあっちの世界でも大したことなかったですし……と、とにかく!今まで通りに接してくださって結構です!?」





その言葉に、モイスからの返事は返ってこない。

ハルナは、やっぱりさっきの強い言い方に対してモイスは機嫌を悪くしたのではないかと、背中にじんわりと汗がにじむ。

今から協力しなければならないはずなのに、関係を悪化させたのではないかとハルナは一瞬カッとなってしまった自分を後悔して、顔を両手で覆った。




『……ハルナ様』



「はい、はい!」





そして、ようやくハルナの耳にモイスの言葉が届き、嬉しくなって二度返事をしてしまった。

そのことについても、”自責モード”に入りそうになったハルナにモイスが言葉を続けてくれた。





『……ワシはあの国に今まで力を貸してきました。初めはラファエルからの命令だったのですが、いつの間にか人間のことが判るようになってきたのです……様々な者がおりましたが、それも必死になって生きようとする姿がいつの間にか、人間という者に好意を持つようになってきたのです』



「へ……へぇ」




ハルナは、モイスの話に気のない返事をする。

これも聞いていい話かどうか今の時点で判断できないため、とりあえず相槌を打ってみた。




『だからこそ……ワシはこの世界の崩壊を止めたいのです。ハルナさん』



「そうですか……ん?……ハルナさん?」



『先ほどの件、ワシに対する命令なら以前のように接することも。先ほどのことは、ご命令ですかな?』



「え、えぇ!そうです!!命令ですよ!!」





そう言って、ハルナとモイスは笑いあった。






――その時、遠くの場所から大きな爆発音が聞こえた。







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