5-127 ヴァスティーユ
「――え?」
次の瞬間、サヤも予測していない状況が起きた。
オスロガルムは大きな口を開け、その中に小さな黒い瘴気の玉……核が見えた。
その核は今にも破裂しそうな勢いで、いくつもの粒子がその中で不規則に回転をしている。
『この日のために……瘴気をため込んでいたのだ……これが破裂すれば、お前も無事というわけにはいかぬぞ、サヤよ!!』
元いた世界でも、核爆発の威力については――もちろん経験はしていないが――様々な媒体からその情報は得ていた。
「あ、あれはヤバいやつだ!?……ほら、逃げるよ!!!」
サヤは後ろにいたヴァスティーユにそう声をかけ、洞穴の出口から飛び降りようとした。
だが、その後ろには付いてくるはずのヴァスティーユが追ってきていない。
振り向くと、ヴァスティーユは両腕を失って倒れ込んでいる妹のヴェスティーユを助けようとしていた。
「ちょっ……なにやってんだい!?アンタまでやられちまうよ!!!」
ヴァスティーユは、ヴェスティーユを抱えて身体を起こした。
「お、お姉ちゃん……なんで……」
「もう大丈夫……お母様のためによくやってくれたわね」
「それはお姉ちゃんが、拘束を解いてくれたから……」
「ほら、もう時間がないよ……行きなさい!」
「え?お姉ちゃんは?一緒にいかないの!?」
「私はここで、あなた達が逃げる時間を稼ぐわ……でなければ、ここで全滅よ」
「それなら私が!?だって、こんな身体だし!!」
「あなたには無理よ……コレを抑えきれないわ。私ならできるの……だから行きなさい」
「いやぁっ!?お姉ちゃん……ずっと一緒にいるって……こんな身体になったとき……そういってくれたじゃない!?」
「お願い……いうことを聞いて、もう時間がないの……乱暴だけどごめんね」
そう言ってヴァスティーユは瘴気でヴェスティーユの身体をサヤの足元の近くまで吹き飛ばした。
「お母様、ヴェスティーユ……妹のことをお願いします」
「……あぁ。わかった……わかったよ」
「それと……今まで、ありがとうございました。本当の親よりも……ずっと……幸せでした」
『……誰一人、逃がしはせんぞ!!!このまま、霧となって消えてしまうがいい!!!!』
ヴァスティーユは、自分の持つ全ての瘴気を使って壁を造り出し洞窟の中を遮った。
「その威力に対して、なかったことにはできないでしょう……でも、お母様たちを逃がすくらいは!!!!」
「お姉ちゃん!!待ってよ!!お姉ちゃん!!お姉ちゃぁああああん!!」
「ほら行くよ!もう間に合わない……!?」
サヤは、ヴェスティーユの身体を抱えて洞窟の入口に向かって跳躍した。
『無駄だ!!!――そら、これで……消し飛べ!!!!』
オスロガルムの用意した瘴気の核が、今まで押さえつけられていたそのうっぷんを晴らすように一気に弾けた。
――!!!
(さようなら……ヴェスティーユ……さようなら……おかあ)
ヴァスティーユの創り出した壁は、光に包まれて一瞬にして蒸発した。
だが、それでもサヤたちが逃げるほんの一瞬の時間は稼ぐことができた。
この世界に、今までにない大きな爆発音が鳴り響く。
そして、今まであった山がそこから消えてしまっていた。
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