5-115 弱肉強食






「……それが理由で、この世界を荒らしているっていうの?」



オスロガルムの話が一旦止まったところで、エレーナは揺れ動く感情を抑えながら魔神に声をかける。

その声に対して、オスロガルムは魔神と呼ばれている残虐さを感じさせない感情で、エレーナの言葉に応えた。



『そうだ。だが、荒らしているという言葉には語弊があるな。ワシはワシなりにこの世界を”救いたい”と考えているのだからな』



「それは、我々も同じだ。この世界がどのような理由で崩壊するのかはわからぬが、黙って見過ごすわけにはいかぬのでな」



「ステイビル王子……」



エレーナは振り返り、背後から声が聞こえたステイビルの姿を目にする。

その瞳の中には、魔神の言葉に惑わされないという強い意志が感じられた。



「……例え世界を救うことが理由であったとしても、西の王国への殺戮行為が許されることはないぞ……オスロガルム」



『何を言うのかと思えば……そんなことは承知の上だ。王国の王子よ』



オスロガルムの言葉には、人が……生き物は死んで当然かのような意図が感じ取られた。

その言葉に、感情が沸き立つステイビルは必死に気持ちを抑え込んだ。




『……お前たちが、この世界である程度の力を持つ前からワシはこの世界を見てきた。強きものが栄え、弱きものは消えていく。既にこの世界から絶滅してしまった生き物たちをワシは知っておる……お前たちは、この世界の”理(ことわり)”の中で弱者としての存在……ただそれだけなのだろう?』



「それでも……それでも、我々や他の生き物はこの世界の中で懸命にその命を全うするために生きている。それをお前が強者だからとて、何をしてもいいということにはならないはずだ!」




ステイビルは握りしめた拳を前に突き出しながら、オスロガルムの身勝手とも思える理論に対して先ほどまで抑え込んでいた感情を爆発させた。



『そこはお互いの意見の相違だな……お互いの基準が変わるならば、大切にしているもの異なることはその小さな頭の中でもわかっているんだろう?だが、今回は、それよりも大切なものが壊れようとしているのだ……少し頭を冷やして考えろ、ワシはお前たちと争うためにここに来たのではない……これがワシの最大限の譲歩だ』





「……っ!?」




ステイビルは魔神の言葉に対して反論を試みるも、間違ったことは言っていないと感じた。

そのため否定したい気持ちだけが先に出てくるが、先ほどのようにそれが言葉に変換されない。






『……さて。ほかに話すことがないのであれば、そろそろ返事を聞かせてもらおうか。ワシと協力するか、それてもしないのか』



『……待ちなさい』



さらに新しい声が加わり、この場の空気が入れ替わっていく。

そして、それと同時にステイビルの横に光の粒子が集まっていく。

エレーナは、光が集まってできた人型のシルエットを見て、その名を口にした。



「……ラファエル様!?」










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