5-103 闇の世界2






暗がりの中、サヤは穴の中に手を入れてみた。



腕が穴の中の岩のとがったところが当たり、ゆっくりと進めても肌に擦れて痛みが生じる……はずだったが、不思議と痛み起きていなかった。

指をゆっくりと曲げていき、自分の身体を引っ張るように穴の中の奥へと導いていく。

次第に肘がはいり、肘と肩の中間点まで進めた頃、肘も曲げることができなくなってきたため抜けなくなることへの不安も芽生え始めた。


(もういいか……ただの穴のようだし)



そう思ったサヤは身体を引き、腕を穴から抜こうとした。



「――なっ!?」




その瞬間、サヤの中指が何かに捕まれたような感覚が伝わってきた。

サヤは必死に自分の腕を抜こうとしたが、痛くはないが自分の指がちぎれそうな感じがしため、一度引き抜く力を抜いた。



『……』



何か身体に直接話しかけてくるが、ノイズが多くて聞き取ることができない。

それに加えて、何が起きたことのかわからない未知なものに対する不安が、サヤの五感を鈍らせていた。

しかし、サヤに話しかけようとしている存在は、それを待ってはくれない。

次の瞬間、洞窟の空気を含むすべてがこの突き当たった場所に向かって吸い込まれていく。




「いて!……おい!……やめっ!……痛っ!」



枯れ葉、石、虫など何がぶつかってきたのかわからないほど、その引き寄せられた先にいるサヤの身体にぶつかってくる。

実際には痛みを感じることはないが、その重みと感触が古い記憶を思い起こさせた。

数十秒間その現象に耐えると、吸引の力が消えて身体を傷つけるものはなくなった。

安心して腕を抜こうとしたが、まだ中指が自由になっていないことに気付き、再び暗い気持ちになった。



「はァ……これ、どうし……げぇっ!?」



サヤは風のような圧力で、一瞬にして洞窟の外に向かって押し出された。

穴にハマっていた腕は一瞬にして穴から抜け出したが、おろし金のように腕は引っ掛けられたような削れた感覚が一気に伝わってきた。


それよりも弾き飛ばされた衝撃の勢いで飛ばされて、バウンドして地面にぶつかるごとに三回程身体が回転した。

四回転目には……いかなかった。


サヤは枯れた草や石や虫などと一緒に、崖の外へ放り出されてしまった。




「くっ!?眩しい……けど」



この瞬間、サヤは重力の影響を受けずに空中を移動していた。

それが今までにないほど、気持ちよく清々しい体感だった。



その時間は終わりを迎える……

はじき出された速度は失速し、身体の重さを感じるようになり空を飛ぶことを許されない生き物は、重力に引きずり降ろされていく。




こんな時でも、サヤには恐怖は感じない。

それよりも、これから起こる出来事について思考を巡らせる。

先ほどもそうだったが、どうやら痛みを感じない身体になったようだ。

この身体が地面に叩きつけられたり、運悪く眼下に見える木々に付く刺さってしまった場合にどうなってしまうのだろうかと。


進行する速度に対し重力が勝ってきたため、サヤの身体は地面に向かって加速し始めた。

きっと十数秒のうちにこの身体はどうにかなってしまうであろう。



その時。

先ほどは聞こえなかった音が、今ははっきりと聞こえるようになり、サヤの頭の中に語り掛けてきた。



『おい……おまえ……たすかりたいか?』








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